表題番号:2011A-039 日付:2012/10/30
研究課題プラチナ錯体を利用したコラーゲン線維化機構の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 小出 隆規
研究成果概要
本研究は、多数の低分子量化合物からのランダムスクリーニングにより同定されたコラーゲン線維化阻害剤であるシスプラチン-ジメチルスルフォキシド(DMSO)錯体のコラーゲンへの作用を詳細に明らかにすることを目的として実施された。

①シスプラチン-DMSO錯体が結合したコラーゲンの超分子構造の観察
 シスプラチン-DMSO錯体が結合することにより、正常なコラーゲンの細線維形成が阻害されることは明らかであったが、シスプラチン-DMSO錯体がコラーゲンの超分子形成過程にどのような影響を及ぼしているのかを知るため、走査型電子顕微鏡による観察を行った。その結果、シスプラチン-DMSO錯体存在下では、正常よりもかなり細く枝分かれの多いコラーゲンの超分子構造体が形成されていることが明らかになった。おそらくプラチナ錯体は、枝分かれ部位に局在しているものと推定された。

②コラーゲン―シスプラチン錯体複合体のstoichiometry
シスプラチン-DMSO錯体のコラーゲンへの結合は、水に対する長時間の透析によってもほとんど解離しないほど強固であることが分かった。また、3重らせん構造を保持した未変性コラーゲンへのシスプラチン-DMSO錯体の結合は、飽和曲線を描いたことから特異的な結合部位の存在が示唆された。このときシスプラチン-DMSO錯体の結合数は、コラーゲン1分子あたり3~4個と見積もられた。さらに、このような錯体のコラーゲンへの特異的な結合は、変性コラーゲンでは観察されなかった。

③シスプラチン-DMSO錯体が結合するコラーゲン上のアミノ酸配列の同定
さまざまな側鎖官能基を有するアミノ酸を導入したコラーゲン様3重らせんペプチドを多数化学合成し、その中から、コラーゲンの細線維形成に対するシスプラチン-DMSO錯体の抑制効果を打ち消すものを探索した。その結果、HisあるいはMetを有するペプチドのみが選択された。この結果は、シスプラチン-DMSO錯体が結合するコラーゲン上の配列は、HisあるいはMet残基を含んでいることを強く示唆するものである。