表題番号:2011A-038 日付:2013/03/18
研究課題グリーンテクノロジー社会の実現を指向した新奇酵素利用バイオプロセスの開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 木野 邦器
研究成果概要
近年、二酸化炭素排出削減に向けてカーボンニュートラルの観点からバイオ燃料が注目を集めているが、限りある化石資源に依存した産業構造から脱却するためには燃料のみならず化学品もその原料を石油からバイオマスに転換することが重要である。また、石油化学工業では物質変換に大量のエネルギー消費、二酸化炭素排出を伴うため、バイオマス由来の原料を出発物質として、温和な条件下での反応を実現する生体触媒により様々な化学品を生産できれば理想的である。植物バイオマス中にはケイ皮酸類が二次代謝産物の前駆体や中間体として広く存在し、またエステルやリグニンなどの誘導体としても多く存在する。そこで申請者らは、ケイ皮酸類をバイオマス由来のモデル原料とし、これらの出発物質から生体触媒を利用して様々な有用物質を生産するための技術開発に取り組んでいる。
カフェ酸は、ケイ皮酸に水酸基が2つ結合した化合物であり、非常に高い抗酸化活性を有する。さらに抗癌活性や抗炎症活性、抗ウイルス活性も有しており、医薬中間体やポリマー原料として応用する試みも近年多数報告されている。これまでに申請者らは、ゲノム情報を利用した探索により2-ナフトエ酸に水酸基を導入するRhodopseudomonas palustris由来シトクロムP450モノオキシゲナーゼCYP199A2を見出しており、さらに本酵素の立体構造に基づいて活性中心近傍のアミノ酸に変異を導入することにより、ケイ皮酸をカフェ酸に変換する酵素の創製にも成功している。
そこで本研究では、変異酵素の詳細な機能解析とカフェ酸生産への応用を中心に検討を行った。活性中心近傍に存在する185位のフェニルアラニン残基を他の9種類のアミノ酸残基に置換した。その結果、ロイシンに置換した酵素Phe185Leuではp-クマル酸に対する水酸化活性が向上し、野生型酵素の5.5倍の活性を示した。また、ロイシン、グリシン、アラニンに置換した酵素は、2段階の水酸化反応を触媒して、ケイ皮酸からm-クマル酸、p-クマル酸を経てカフェ酸を合成することが可能になった。さらに変異酵素Phe185Leuを用いてフラスコレベルでのカフェ酸生産試験を検討したところ、リッターあたりグラムスケールでの生産を達成した。