表題番号:2011A-024 日付:2012/04/08
研究課題古代語述語体系の動態的把握ーテンスを中心にー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 准教授 仁科 明
研究成果概要
 古代日本語の述語体系を記述する試みの一環として、今年度は、テンスの領域を中心に研究を進めた。
 古代語のテンス・アスペクト領域の研究は、以前からずっと行われてきているが、特にここ数年、重要かつまとまった成果があらわれてきており(鈴木2009・井島2011など)、また、それらを踏まえた新しい研究の流れも見られる(2009年に刊行された国語と国文学86巻11号の特集「古典語のテンス・アスペクトを見直す」など)。基礎的な作業として、そのような議論の検討を行った(本研究の直接の成果とは言えないが、仁科2011はこの作業と関連する業績である)。
 一方、個別・具体的な論点としては、古代語の過去形式とされる「けり」に重点をおいて研究を行った。「けり」については、同じく過去形式とされる「き」との使い分けが問題にされてきており、これまでに多大な研究の蓄積がある。こうした学説史の中で、「けり」は、「き」に対して、「現在とかかわりのある過去の形式」だとか「間接経験の過去(伝聞過去)を表す形式」だとか言われてきているが、いずれも決め手を欠いている。この問題に関し、近年の研究で明らかになってきたのは、「き」は「ふつうの過去」を表すとまとめることが出来、用法も等質的である(山口1985、野村2007、鈴木2009など)のに対して、「けり」が表す過去は特殊で且つ等質性に欠けるという点である(この点については、仁科2011でも指摘しておいた)。「けり」(と「き」との使い分け)について提案されてきたいくつかの説明方法は、多様且つ非等質的な「けり」の用法のそれぞれ一部に光を当てたものであったと判断されるのである。研究代表者は、このような「けり」の用法の非等質性に注目し、歴史的・体系的な観点から中古の「けり」を位置づけることを目指した。
 本研究の成果にもどづく議論の一端(全体の見通し)は、早稲田大学国語教育学会の第二四九回例会(2011年12月10日)における講演「文法形式の用法把握--「けり」のことなど」の中で示した。現在は、その議論を精緻化し、論文にまとめるべく作業を進めている。

井島正博2011 『中古語過去・完了表現の研究』(ひつじ書房)
鈴木 泰2009 『古代日本語時間表現の形態論的研究』(ひつじ書房)
仁科 明2011 「〔書評論文〕鈴木泰 著『古代日本語時間表現の形態論的研究』」(日本語文法11-2 2011年9月 日本語文法学会)
野村剛史2007 「源氏物語のテンス・アスペクト」(講座 源氏物語研究8 源氏物語のことばと表現)
山口佳紀1985 『古代日本語文法の成立の研究』(有精堂出版)