表題番号:2011A-013
日付:2012/04/14
研究課題国際文化交流理念の形成 ~現代イギリス文化外交に関する補完的研究~
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 文学学術院 | 准教授 | 渡辺 愛子 |
- 研究成果概要
- 本研究課題は、20世紀のイギリスの文化外交における国際交流理念の展開と21世紀における展望について、包括的な調査および考察を行うことを目的とした。題目に「補完的」研究と付したのは、今年度まで交付を受けてきた科学研究費補助金(基盤C)「20世紀英国の文化変容にともなう対外パブリシティ戦略の変遷とその成果」の遂行中に新たに判明した問題点を、本研究によって「補い」かつ「完成」させたいという意図によるものであった。本研究課題遂行のためには、膨大な一次資料を、研究対象国であるイギリスにおいて集積する必要があったが、2011年度の特別研究期間適用によるイギリス滞在を最大限に利用し、過去、夏季休暇中に断続的に行っていた公文書館における一次資料の収集を集中的に行うことができた。
具体的には、ロンドンにある英国公文書館に総計3週間程度を費やして、イギリスの国際交流機関ブリティッシュ・カウンシルの内部資料(BW)のほか、監督官庁として影響力が最も大きかった外務省ファイル(FO)、間接的影響力を持つ内務省ファイル(HO)および総理大臣文書(PREM)、政策方針形成に関与した内閣関係ファイル(CAB)、補助金予算との関係を示す財務省ファイル(T)の史料を中心に、閲覧・収集した。また、それまでの研究成果の一部を、2011年11月にケンブリッジ大学で開催された学会Art and Politics in Britainにおいて口頭発表した(‘Purveying “British Art” abroad: the politics behind the British Council’s selection of art and visual culture shown behind the Iron Curtain’)。そこではブリティッシュ・カウンシルの旧ソ連共産圏への文化投影の手法だけでなく、伝達する文化の内容(質)についても注意を払って考察した。さらに、研究課題遂行中、「経済」と文化の影響関係についての理解が不十分であったことを痛感したことから、アムステルダム大学において文化経済学に関する専門機関CREARE (所長はエラスムス大学Arjo Klamer教授)主催の夏季集中セミナーである‘Value of Culture: on the Relationship between Economics, Culture and Arts’に参加することができた。そこでは大学研究者や文化政策担当者たちとも活発な議論を行い、本研究課題における問題意識をさらに強めることとなった。
本課題を通じて、これまでの数年間携わってきた科研費その他の研究課題の修正作業を含め、過去の研究課題において見落としてきた大局的な外交史と、そこに位置づけられる文化外交史との関係性について理解を深めることができた。