表題番号:2011A-009 日付:2012/11/27
研究課題民事訴訟における「一部請求」の判例理論の分析・再構成と理論的展開
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 勅使川原 和彦
研究成果概要
 一部請求論に於ける判例のいわゆる「明示説」について、
最判平成20年7月10日、最判平成10年6月12日、最判昭和61年7月17日、最判昭和45年6月19日、最判昭和43年6月27日、最判昭和42年7月18日、最判昭和37年8月10日、最判昭和34年2月20日、最判昭和32年6月7日の一連の最高裁判例の他、東京高判平成12年7月26日や、最判平成20年7月10日を受けてなされた最近の下級審裁判例である、福岡高判平成21年7月7日およびその第一審たる佐賀地判平成20年8月22日のような重要な下級審裁判例の分析を、
「一部請求論」に関する広範な学説(論文、基本書、コンメンタール)、データベースを参照しつつ行い、
それが「明示をした」という「行為(事実)」のみならず、(明示がなされたものとみる)「評価」の問題であることを抽出し、また国際民事訴訟法への応用可能性の展望にも言及した。
 すなわち、従前より判例は、後発後遺症や判決確定後の事情変更による拡大損害の賠償請求について、「一部である」との直接の明示行為のない場面で、前訴請求を一部請求であったものとして、残部請求として後訴を許していた が、その根拠には「両当事者の公平」や「原告救済の必要性」の衡量があったと考えられ、それは平成10年判例の信義則の適用背景に共通しているものである。私見によれば、一部請求における「明示」には、少なくとも二つの機能があると考えられ、すなわち、①被告への情報提供機能、および②訴訟物分断(申立て範囲限定=既判力範囲限定)機能がそれである。判例と学説が結論的には残部訴求を認めることで一致しつつも、理論構成についてはっきり乖離するのは、後発後遺症や拡大損害の処理の場面である。これらの場面で判例は、「明示」ありと評価すべき基礎となる行為すら存在しない場面で、「(明示的)一部請求であった」と回顧的に評価し、一部請求論の枠内で処理する。情報提供機能をもたないか、あるいはそうした機能に意味がないこうした場面で、訴訟物分断(申立て範囲限定=既判力範囲限定)機能を用いることが、判例の「明示説」を際だって特徴付けるものであり、「明示=評価」と把握しなければ正確に理解できないと思われる部分である。

 以上の研究成果は、研究ノート「一部請求におけるいわゆる「明示説」の判例理論」として、早稲田法学八七巻四号63~79頁に掲載されている。