表題番号:2011A-006 日付:2012/04/09
研究課題地域主権改革下における住民訴訟法理の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 田村 達久
研究成果概要
 2011(平成23)年5月と8月に、同名(地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)の、しかし、相異なる内容の2つの法律が公布され(平成23年法律第37号〔第1次一括法〕と平成23年法律第105号〔第2次一括法〕)、また、これに併せて、同年5月には、地方自治法の一部を改正する法律(法律第35号)も公布され、これら諸法律により、地方公共団体への法令等による各種の義務付け・枠付けが廃止あるいは緩和、整理されるなどの所要の見直し、さらには、前記第2次一括法により基礎自治体への権限委譲が行われることとなった。地方公共団体における行政活動への各種の法的規制が緩和されるとともに、法的権限が拡大されることにより、地方公共団体における自己決定、自己責任の範囲も同時に拡大する。したがって、地方公共団体の行政活動に対する法的統制の比重も、法律による事前統制(立法統制)から裁判を通じた法的事後統制(司法統制)へと移らざるをえず、それ故、司法統制の実効性が問われる。住民監査請求制度を含む住民訴訟法制は、地域主権改革下における地方公共団体の行政活動に対する法的事後統制の法的仕組みとして、その実効性がより一層問われることになる。
 住民訴訟法制の大改正のなされた2002(平成14)年以後に下された住民訴訟判決だけでも千件は優に超える膨大な数となるため、ここでは次の2点に焦点を絞った形で本研究成果の一端を明らかにするにとどめる。一つは、地方自治法2条14項に定められた最少経費最大効果原則(効率性原則、経済性原則)の観点からする住民訴訟による司法統制の実効性如何であり、もう一つは、地方公共団体の議会の債権放棄議決(地方自治法96条1項10号)の有効性との関係からみる住民訴訟による司法統制の実効性如何である。
 前者については、それが行政法原則の一つとして指摘されることがあり、重要な法原則と認識されてきている。このこと、そして、行政改革を念頭に置きつつ、住民訴訟が財務事項の司法統制の法制度であることに鑑みると、最少経費最大効果原則(効率性原則、経済性原則)の観点からする統制は今後さらに厳格にされてしかるべきであると考えるが、従来の裁判例においては、たしかに事案の詳細な検討がなされてはいるが、必ずしも厳格なものとはなっていないように思われる。
 後者については、学説上は、住民訴訟上の係争事件となった事案に係る議会の債権放棄議決を無効とする見解が優勢であり、その方向での法制改革も検討されている。私も基本的にそれを無効であると考えるが、高等裁判所のレベルにおいては、有効・無効の判断は分かれている。ただし、2012(平成24)年4月20日および同月23日に最高裁判所の判決が下され、これにより裁判所における統一的な判断が示されることになるとの報道に本報告執筆の最終段階において接することとなったため、本特定課題研究期間自体は終了するものではあるが、今後も本研究自体は継続し、近い将来新たな機会を捉えて、さらなる研究成果を公にしたいと考えている。