表題番号:2010B-365 日付:2011/02/19
研究課題「境界」の土器づくりを探る/バングラデシュにおける土器製作技術の民族誌的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 本庄高等学院 教諭 齋藤 正憲
研究成果概要
 東西アジアの土器製作技術の調査・研究を進める報告者は、バングラデシュ・ダッカ近郊のチョウハット村において、土器づくりに関する民族誌的調査を昨年度に実施している(齋藤正憲 2010 「バングラデシュ・チョウハット村の土器づくりⅠ」『東南アジア考古学』30, 91-99.)。本年度は、再度、チョウハット村を訪ね、同様の民族誌的調査を実施し(2010年12月21日~27日)、情報の充実に努めた。結果、以下のような成果を挙げることができた。

(1)長時間焼成の観察
 前回調査では、赤褐色土器を短時間(トータル3時間ほど)で焼き上げる焼成を観察したが、本年度の調査ではより長時間に及ぶ土器焼成を観察することができた。泥の覆いを二重に施すことで密閉度を高めたこの焼成は、トータル6時間におよぶ。燃料投入の直前には、古タイヤを焚き口に投入した上で、焚き口や覆いを密閉する。この作業によって、土器は黒色に焼きあがった。土器の焼成具合はおおむね良好であり、歩留まりも96%を超えた。覆いの厚みを調整することで、黒色土器と赤褐色土器を焼き分けていることが観察され、貴重なデータを収集することができた。

(2)土器づくり村の全戸調査
 バングラデシュにおける土器製作者、すなわち土器づくりカースト(=「クマール」)が集まるチョウハット村の全貌を把握するべく、全戸調査を実施した。現在土器をつくるすべての家庭を訪ね、土器づくりに従事する人物の聞き取り調査を実施した。結果、計70名の土器製作者を識別した。興味を惹いたのはその男女比率である。70名の土器製作者のうち、男性28名、女性42名であった。女性優位の土器づくりが確認されたのである。これは、チョウハット村を取り巻く経済環境の変化によると推測された。すなわち、2010年9月、チョウハット村への橋は完成したことで、急速に都市経済に飲み込まれることとなった。現金収入を求めて男性が離村するケースが相次いだのである。村に残された女性たちによって土器づくりが継承されているという状況が明らかになった。

(3)土器流通網の調査
 上記の調査と並行して、土器の流通形態についても、情報を集めた。結果、以下の3形態が確認された。
①相対売買:土器工房を直接訪ねて、あるいは陶工が歩いて土器を運べる範囲での土器の取引である。日常品としての土器を売買する、もっとも素朴な形態である。
②村の定期市における取引:週に1回開催される定期市に投稿が出品し、土器を売買する。取引される土器は、日常品である。
③都市のマーケットにおける取引:ダッカに隣接するサヴァールで、土器の常設マーケットがあり、ここに出品する陶工もいる。ただし、このマーケットに出品する場合には、市場が望む土器をつくることとなり、一定の様式の土器(派手な装飾が目を惹く置物・調度品の類)が主力商品となる。
 今後、素朴な流通形態を呈するチョウハット村の土器流通がどのような変貌を遂げるのか、調査を継続したい。