表題番号:2010B-355 日付:2011/04/11
研究課題同時代の文化的・歴史的状況を踏まえた有島武郎の作品群についての総体的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 相沢 毅彦
研究成果概要
本年度は「有島武郎の作品群についての総体的研究」を行うにあたって、結果的に有島についての具体的な論というよりは、その研究方法について深く検討することによってその主な成果がもたらされたと言える。
具体的には、今なお文学研究の分野ではその方法論について混迷が見られ、そのことの問題とそうした混迷を乗り越えるべく理論的な再構築を展開するための研究を行った。
文学研究の分野での混迷とはすなわち、一方で旧来的研究的方法による作家論や文献研究等が行われ、もう一方でテクスト論等ポストモダンの経験を経た研究方法が存在しているが、それら1980年代以降のポストモダンの理論を通過した論者は従来の研究から文化研究(カルチュラルスタディーズ)やフェミニズム批評、ポストコロニアリズム批評等の研究にスライドしていった。しかし、文学を文化の一つに過ぎない、他の文化と「等価」として考える文化研究や「女性」や「政治」に纏わる様々な問題を中心として考え、文学をそのためのツールや資料として付置するフェミニズム批評やポストコロニアリズム批評は「~のため」に文学テクストを用いるといったように文学を二次的なものとして置き、文学そのものの価値や意味を問うことは避けられてしまう傾向にある。また旧来の文学研究的方法論では文学的文章を「実体論」的な世界観でしか捉えられておらず、テクスト(還元不可能な複数性)としての側面が考慮されていないため、こうした見方も現在となっては不十分であると言わざるを得ない。
そのような双方の問題を如何に乗り越え、新しい文学的理論(世界観)を獲得し、それを文学としての価値を活かすような具体的な「読み」の実践へと結びつけていくのか、という考察が本年度の主な成果であった。
具体的にどのような研究を実践したかということについては余白の関係上「研究成果発表」の項目に記しておくことによって代えることにしたい。