表題番号:2010B-320 日付:2011/04/14
研究課題ウィリアム・フォークナーの初期試作品をめぐる文化社会的コンテキスト
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 大和田 英子
研究成果概要
 今年度は第一次資料の精読を行い、これまでの研究成果を総覧することに努めた。特にニューオーリンズやヨーロッパでの創作時期に書かれた作品、詩人としての模索の時期に書かれた作品を中心とした。この時期の作品は、A・E・ハウスマン、ジョン・キーツ、コンラッド・エイケン、T・S・エリオットなど多くの詩人の影響が認められ、合わせてインターテクスチュアリティーを掘り下げた。特に、キーツのnegative capabilityに代表されるような「詩的知覚」の源泉とも言うべき表現方法に注目した。フォークナーの場合、こうした知覚は彼自身の言葉によると「一枚の絵」に凝縮されることが多く、そこから後の長編が紡ぎだされる源泉ともなっているため、そうした心象風景が浮かぶ更なる源泉を初期作品の詩的イメージに重ね合わせる試みでもある。これは、フォークナーの語る「挫折した詩人」の観点からも、彼の詩的言語の解釈には後の長編作品の創作原理にもつながっていく。
 初期の作品は、主として雑誌や新聞、タブロイド判パンフレットなどに投稿・掲載され、のちに、フォークナーが作家としての地盤を固めてから詩集として出版されたものが多い。もちろん、「詩集」として読む場合、その創作原理をより純粋に取り出すことは可能なのだが、フォークナーが現実の生活のなかから取り出した詩の言葉は、それが産み落とされた時代の息吹と対照することにより、その源泉を明確にできるものと考えられる。