表題番号:2010B-290 日付:2013/05/08
研究課題言語機能に対する潜在的アセスメント・ツールの開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 専任講師 大月 友
研究成果概要
本研究は,自己報告によらない言語機能のアセスメント・ツールの開発を試み,Implicit Relational Assessment Procedure(IRAP)の妥当性を検証することを目的とした。
このIRAPとは,潜在的態度や潜在的信念といった潜在的認知をアセスメントするためにデザインされた潜在的測度である。IRAPは,事前に確立している言語関係の指標になるとされ,過去の個人の学習歴が反映されると考えられている。しかしながら,これらの基本的前提を検証した実証研究は少なく,IRAPの理論的基盤となる基礎知見を提供することは,その妥当性を保証する上で重要と考えられる。
そこで本研究は,無意味つづりを用いた言語関係の学習を事前に行い,それらの言語関係がIRAPに示されるかどうかを検討した。
38名の大学生および大学院生が,実験に参加した。実験参加者は,統制群,直接的学習群,派生的学習群に振り分けられた。直接的学習群には,直接的な言語関係の確立を目的とした関係訓練が実施され,続いて,確立した言語関係を評価するためのIRAPが実施された。派生的学習群には,派生的な言語関係の確立を目的とした関係訓練が実施され,続いて,確立した言語関係を評価するためのIRAPが実施された。一方,統制群には,これらの関係訓練を実施せずに,IRAPが実施された。
実験の結果,直接的学習群と派生的学習群の両群において,事前の関係訓練で確立された言語関係と一致する効果が,後のIRAPにおいて,反応潜時や正答率,Dスコアで示された。一方,統制群では,明確なIRAP効果は確認されなかった。このことから,IRAPは過去の学習によって事前に確立している言語関係の指標になることが明らかとなった。さらに,直接的な関係を学習した場合でも,派生的な関係が確立した場合でも,学習された言語関係がIRAPで示されることが実証された。これまで,学習歴がIRAP効果に及ぼす影響を系統的に検証した実証研究はなく,本研究に置いて直接的な学習においてのみでなく,派生的な学習においても効果が示された点は意義深いものと思われる。これらの結果から,IRAPは非内省的な言語機能の評価方法として,一定の妥当性を有するツールであると考えられる。