表題番号:2010B-284 日付:2011/04/09
研究課題時間ー体温ー摂食を統合する視床下部神経ネットワークの解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 永島 計
(連携研究者) スポーツ科学学術院 次席研究員 時澤、健
研究成果概要
我々は絶食によって寒冷時の体温調節反応が弱められることを報告している(Tokizawa et al. Neuroscience 2009)。その反応は、マウスにおいて暗期と比べて明期(非活動期)に特に大きく弱められる。この時間特異性のメカニズムとして、時計遺伝子Clockおよび視交叉上核の神経活動亢進に伴う室傍核の活動抑制が関与することを我々は明らかにしている。しかし、絶食によって引き起こされるどのような因子が体温調節反応を減弱させるのか、また時間特異的な反応を引き起こすのかは明らかではない。そこで本研究では、絶食によって変化する摂食ペプチド(レプチンの低下、グレリンの増加)が時間特異的な体温調節反応に関与しているか否かを検証することを目的として行った。【2010年度 進捗状況報告】実験1:野生型およびレプチンを欠損するob/obマウスを、27℃の環境温で12h-12hの明暗サイクル(午前7時(ZT0)点灯,午後7時(ZT12)消灯)で飼育した。体温および活動量の概日リズムが確認された後、20℃の寒冷暴露を明期(ZT1~4)または暗期(ZT13~16)に行った。実験2:野生型マウスにおいて、腹腔内にグレリン(8 nmol)をZT1またはZT13に投与し、10℃の寒冷暴露を明期(ZT2~4)または暗期(ZT14~16)に行った。対照として、生理食塩水を投与する試行も行った。両実験において、寒冷暴露時の深部体温と活動量をテレメトリー、酸素摂取量を間接的カロリメトリーにてそれぞれ測定した。また寒冷暴露直後に脳を採取し、神経活動のマーカーであるc-Fos蛋白の免疫組織化学染色を行った。【結果】実験1:野生型マウスにおいては明期と暗期ともに、寒冷暴露によって深部体温は変化しなかった。また酸素摂取量は有意に増加した。ob/obマウスにおいて、寒冷暴露により深部体温は有意に低下した。明期と暗期の間で有意な差は認められなかった(明期、3.8 ± 0.8℃;暗期2.1 ± 0.3℃)。寒冷暴露によって酸素摂取量は増加したものの、野生型と比較して有意に低かった。c-Fos蛋白の免疫陽性細胞数は、視床下部のいずれの神経核においても野生型とob/obマウスの間で有意な差は認められなかった。実験2:グレリンを投与した野生型マウスにおいて、明期の寒冷暴露によって深部体温は生理食塩水投与と比較して有意に低下した。また酸素摂取量は増加したものの、生理食塩水投与と比較して有意に低かった。一方暗期においては、グレリン投与試行の寒冷暴露によって深部体温は低下せず酸素摂取量は有意に増加し、生理食塩水投与との間に有意な差は認められなかった。c-Fos蛋白の免疫陽性細胞数は、視交叉上核において明期にグレリン投与によって有意に増加した。また弓状核においては、明期と暗期ともにグレリン投与によってc-Fos蛋白の免疫陽性細胞数は増加したものの、暗期の方で増加は大きかった。室傍核において、グレリン投与のみではc-Fos発現は見られなかったものの、グレリン投与で寒冷暴露を行った暗期においては、c-Fos蛋白の免疫陽性細胞数は有意に増加した。
【結論】レプチンの欠損は体温調節反応を弱めるが、絶食時に見られる時間特異的な体温調節反応の減弱には関与しないことが示唆された。一方グレリンの増加は、時間特異的に明期にのみ体温調節反応を弱める可能性が示唆され、絶食時に見られる時間特異的な体温調節に関与する可能性が考えられた。