表題番号:2010B-273
日付:2011/04/08
研究課題リベラル・ナショナリズム論研究―日本における複数ネイション共存の可能性―
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 社会科学総合学術院 | 助手 | 小松 寛 |
- 研究成果概要
- 本研究では、日本におけるリベラル・ナショナリズムの可能性を考察することが目的であった。リベラル・ナショナリズムとは、個人的アイデンティティの一部としてのナショナル・アイデンティティ(民族への帰属意識)を積極的に肯定しながらも、他の文化や民族の多様性、とりわけマイノリティの存在を認め、共存を図ることを目的とする近年登場した政治理論である。
そのための事例として、1972年の沖縄の日本復帰に着目した。当時の復帰に関する議論は、日本と沖縄のナショナリズムおよびナショナル・アイデンティティについて最も注目された時期だからである。そのための資料として、日本復帰に尽力し日本政府との交渉の責任者であった屋良朝苗(琉球政府主席)による日誌、通称『屋良日誌』を集中的に扱った。『屋良日誌』は2010年度より沖縄県公文書館から公開が始まった資料であり、その内容の多くはこれまでに公開されていなかった。本研究ではこの『屋良日誌』の分析に注力し、その資料の有意性を認めた。すなわち、本資料は屋良による1953年以降の復帰運動および日本政府との交渉過程を考察する上で必須であることが確認できた。その内容としては、大きく「日記」と「メモ」の2種類に分けられることが分かった。「日記」には屋良自身の心情が克明に記されており、日本政府への憤りなどが記されていた。「メモ」には琉球主席および沖縄県知事時代に日本政府等の要人との会談内容の記録および記者会見の下書きが残されている。これにより、屋良自身の私的な部分が「日記」に、公的な見解が「メモ」に記されていることがわかった。これらへのより詳しい分析結果は以下の学会にて報告した。
2010年11月20日 沖縄文化協会「『屋良朝苗日誌』の公開とその意義」
2010年12月18日 日本平和学会関東地区研究会「沖縄帰属議論における日本復帰派のナショナル・アイデンティティ-『屋良朝苗日誌』にみる天皇への思いと「本土並み」-」
今後は本研究で得られた知見をもとにすることによって、日本と沖縄のナショナリズムの相互作用を検討し、さらには、いわば「戦後日沖関係史」の一端を明らかにすることができると期待される。