表題番号:2010B-269 日付:2011/04/12
研究課題産業遺産をめぐる歴史と記憶についての知識社会学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 准教授 周藤 真也
研究成果概要
 これまで主に旧産炭地における炭鉱の歴史と記憶について取り組んできたが、釧路地区の炭鉱の遺構について未訪問であったため、5月に現地視察を行い、これまでの研究成果をまとめて5月下旬に発表した。釧路地区は、旧炭鉱街が消滅している事例が多数存在しており、また人口の少ない地域に点在しているため、歴史と記憶の現在という本研究の観点からは非常に示唆的であった。
 本年度は、研究対象を炭鉱から金属鉱山に広げて研究を行う予定であったが、年度途中に科学研究費の採択が決まったため、以降は科学研究費での研究実施となった。
 関東地域(日立、足尾など)、東北地域(小坂、尾去沢、釜石、細倉など)、西日本(生野、柵原、吉岡、別子など)の現地視察を行い、旧鉱山の遺構の状況、関係する資料館等における遺物などの保存状況、旧鉱山の歴史の記述形式やまちづくりに活かす取り組みなどを確認し、関係する資料の収集を行うとともに、炭鉱の場合との比較研究を行った。その結果、金属鉱山の歴史は、多くの場合、近代化以前からの歴史をもっているため、それへの言及が多く、相対的に近代化以降のことがらへの言及が省略されたり捨象されたりすることにおいて、基本的に近代化以降の歴史としてしか語られない炭鉱との際立った違いを見せていることが明らかになった。
 また、海外との比較研究の準備のため、西欧やアジアにおける事例として、イギリスの旧鉱山の歴史と台湾の製糖産業の記憶について現地視察を行った。台湾においては、2000年代に入って日本統治時代から長年基幹産業であった製糖産業が急速に衰退していく中、台湾製糖を中心として観光化の取り組みが見られ、その中で製糖産業の記憶がどのように扱われているのかを確認した。イギリスにおいては、南ウェールズやヨークシャー地方の炭鉱、コンウォール地方の鉱山(銅、錫鉱)の遺構や関連する博物館等を視察し、イギリスの鉱山が産業革命との深い関わりのもとに語られている実態を観察した。
 以上のように、本年度は現地視察を中心として取り組んできたが、次年度以降、科学研究費において、より比較対象を広げて研究を継続するとともに、収集した情報や資料をもとに、順次研究発表を行っていきたいと考えている。