表題番号:2010B-263 日付:2011/04/07
研究課題投資意思決定に関するリアルオプション分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 教授 葛山 康典
研究成果概要
 本研究では、投資意思決定における段階的投資について、リアルオプションの視点から検討を行った。
リアルオプションの分析において、例えば2段階で徐々に資金を投入する方法は、1段階の意思決定問題に退化する。第1段階の投資の前後でオプションの価値を表すHJB方程式が同じ係数を持つため第1段階の投資開始の閾値が第2段階の閾値より高くなることから生じる。
 したがって、段階的投資は投資実行から設備の完成に時間が掛かる場合等に限定的な場面でのみ意味を持つ解を提供する。このケースでは多くの場合、最大投資量とゼロの間のBang-Bang Typeの解が得られることが一般的である。
 しかしながら、Pindyck(1993)が指摘するように、投資に関するTechnical Uncertaintyが存在する場合には、投資実行がプロジェクトの困難度等に関する新たな情報を与え、段階的投資が意味を有するケースが存在する。例えば第1段階としてR&D投資を実行した後に、生産設備投資を行うような場面を想定すると、R&Dの実行によって、第2段階の微分方程式の係数が変化するため、上述のような段階的投資が単一の投資決定問題に退化する現象は生起しない。また、このケースでは、もう一つの不確実性の源泉であるCost Uncertaintyのように、投資を延期することによってプロジェクトの価値を増すことはない。
 特にベンチャーキャピタルが未公開企業に投資を行うケースでは、その資産が特許権など無形固定資産など必ずしも流動性が高くないものが中心となることが多い。この場合、技術的な不確実性について情報の非対称性によるエイジェンシーの問題も生起する。本研究では、これらのケースを想定し、実務的に散見される段階投資とエイジェンシーの問題を取り扱うためのモデル構築について検討を加えた。