表題番号:2010B-197 日付:2011/04/11
研究課題Ⅳ族系半導体と酸化膜の界面特性に関する原子論的考察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 渡邉 孝信
研究成果概要
Ⅳ族系半導体をベースとした省電力LSI、パワーデバイス、太陽電池技術の更なる発展のため、これら半導体と酸化絶縁膜の界面構造、その形成メカニズム、電気的・熱的特性との関連を、理論計算と実験の両面から、原子レベルで明らかにすることを最終目標に掲げている。本特定課題研究では、これまでのSiO2/Si界面の研究で培った大規模分子シミュレーション技術を多元素系へ拡張する研究を進めるとともに、酸化被膜で覆われたナノワイヤトランジスタの電気特性評価に取り組み、主に以下の成果を得た。

・ナノスケール半導体中のフォノン挙動
SiO2膜で挟まれたシート状Si結晶層中における各種フォノンモードの分布の時間発展を分子動力学シミュレーションで調査した。特に、群速度が小さく熱滞留の要因と考えられる縦波光学(LO)フォノンの緩和時間に注目し、SiO2膜厚依存性、Si結晶層厚依存性を調べた。その結果、Si結晶層が薄くなるほどLOフォノンの緩和時間が短くなり、酸化膜厚には依存しないことが明らかとなった。この事は、Si結晶とSiO2膜の界面においてLOフォノンの緩和が促進していることを示唆している。Si結晶のナノサイズ化は熱伝導率が低下することが知られているが、LOフォノンの緩和し熱滞留を抑制するにはむしろ好都合であることが明らかとなった。

・ナノワイヤトランジスタの電気特性評価
ナノワイヤ型のチャネルを有する新原理トランジスタの性能を、シミュレーションと実験の両面から調査した。本年度は、省電力デバイスの候補として注目されている各種トンネルトランジスタのシミュレーションを実施し、比較検討を行った。実験では、Siのナノワイヤトランジスタを製作し、ナノワイヤを覆う酸化膜厚を薄くするほどトランジスタの電流駆動能力が低下することを確認した。この結果は、酸化膜によって印加されるSi結晶内の歪が電流駆動能力の向上に重要な役割を果たしていることを示している。


・多元素混在系用の新型原子間ポテンシャルの開発
SiO2/Si系以外の様々な系の大規模分子動力学シミュレーションを実現するため、原子間の結合次数を決定する要素の運動も記述する新しい汎用分子動力学法を考案した。本方法であれば、多元素が混在する複雑な系のポテンシャルも設計でき、なおかつ共有結合の組み換えを伴う化学反応を再現できる。本手法をDynamic Bond-Order Force Fieldと名付け、2011年1月にJournal of Computational Electronics誌で発表した。