表題番号:2010B-192 日付:2011/03/07
研究課題硫化物法による自然水・工業廃水からの重金属の浄化処理および資源回収
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 所 千晴
研究成果概要
本研究は、硫化物法によって廃水からのNi選択回収を試みるものである。高濃度Ni含有めっき廃水に硫化物法を適用すると、硫化ニッケルを主とするスラッジが得られる。この硫化ニッケルを再溶解させることによって、高純度のNi溶液を得ることができ、電解採取等によってNiの資源回収が可能である。しかし、硫化ニッケルは溶解度が低く、水や酸によって溶解させることができない。一方、硫化ニッケルを酸化させ、硫酸ニッケルとすることによって、水にある程度を溶解させることが可能である。
本研究では、XAFS法により、Ni含有廃水から得られた硫化ニッケルに対し、空気酸化による硫酸ニッケルへの酸化機構を検討した。測定試料として、模擬廃水または実廃水((株)みすず工業より提供)に硫化剤を添加して得られた硫化物スラッジを用いた。スラッジは含水率を制御した容器ないで空気酸化を行い、定期的に分取してXAFS測定に供した。KEK-PFで行ったXAFS測定より、熟成時間が短い場合には、S(-2)に由来すると考えられる低エネルギー側でのピークが確認されたが、そのピークは時間の経過と共に消滅することがわかった。また、SO3(-2)に由来すると考えられるピークは、熟成時間6時間において既に認められており、時間の経過と共にピーク強度はそれほど変化していなkった。一方、SO4(-2)に由来すると考えられるピークは、熟成時間6時間において既に認められ、時間の経過と共にピーク強度が大きくなっている様子が確認できた。以上より、硫化ニッケルは、亜硫酸ニッケルを経て、硫酸ニッケルまで酸化すると考えられた。
XAFSの結果を裏付けるために、得られた沈殿物を熟成時間毎に水または酸に溶解させる実験を行った。ニッケルは水、酸ともに不溶、亜硫酸ニッケル水に不溶であるが酸に可溶、硫酸ニッケルは水、酸ともに可溶であるという性質が知られている。これを利用して、各溶出率からスラッジ中の硫化ニッケル、亜硫酸ニッケル、硫酸ニッケルの量を算出した。その結果、硫化ニッケルは初期では70%ほどを占めていたが、40日間熟成を行なうと、10%まで減少しており、酸化が進行するにつれて急激に減少することが判明した。一方で亜硫酸ニッケルは10日間を境にゆっくりと割合が減少することがわかった。このことから、硫化ニッケルから亜硫酸ニッケルへの酸化よりも、亜硫酸ニッケルから硫酸ニッケルへの酸化の方が速度が遅いと推察される。