表題番号:2010B-188 日付:2011/05/24
研究課題クリプトクロムの分子解析を通した脊椎動物の新規光応答経路の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 岡野 俊行
研究成果概要
 クリプトクロムは、動植物あるいはバクテリアにも存在する青色光受容体であり、光依存的な形態形成や概日リズムの調節などに働いている。ヒトをはじめとする哺乳類では、光受容体としては機能していない代わりに、概日リズムを制御する概日時計の構成分子として働いている。哺乳類以外の脊椎動物では、概日時計構成分子としての機能に加えて、光エネルギーを利用して地磁気を検知して方位や緯度を割り出すための磁気センサーとして機能する可能性が示唆されている。このようにクリプトクロムの多様な機能が明らかになりつつあるものの、概日時計の調節や磁気受容の分子機構はまだ謎につつまれている。そこで本研究では、さまざまな環境に棲息する脊椎動物を対象にクリプトクロム分子の発現や構造に関する研究を行った。具体的にはまず、両生類のモデル生物であるネッタイツメガエルにおいてクリプトクロム分子の解析を行った。その結果、ネッタイツメガエルにおいては3種類のクリプトクロム遺伝子が存在することがわかった。全身の主要な組織におけるmRNA発現を調べた結果、興味深いことに、いずれも卵巣において極めて高い発現が観察された。また、概日時計機能と深い関連がある月齢応答におけるクリプトクロムの機能を解析するために、月齢応答性の熱帯魚であるゴマアイゴにおけるクロプトクロムの解析も行った。その結果、ゴマアイゴより2種類のクリプトクロム遺伝子を同定することができ、いずれも、ゴマアイゴが産卵する上弦の月に脳において高い発現を示すことがわかった。ゴマアイゴクリプトクロムの発現パターンの解析より、月齢応答の分子機構モデルを提唱した。これらの研究と並行してさらに、光環境とクリプトクロム機能の関連を知るために、光がほとんど届かない深海に棲息するバラビクニンのクリプトクロムおよび時計遺伝子の解析を行った。その結果、バラビクニンのクリプトクロム遺伝子に加えて概日時計構成分子であるBMALおよびCLOCKの遺伝子も同定した。機能解析の結果、クリプトクロムは概日時計の発振を制御する転写調節機能を有することも明らかになった。これらの結果から、深海魚は特殊な環境に棲息するにも関わらず、概日時計を有することが強く示唆された。