表題番号:2010B-186 日付:2011/04/11
研究課題熱音響現象等の解析を目指した分子運動を考慮した音場解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 及川 靖広
研究成果概要
 音波伝播の解析には、音線法に代表されるような幾何音響解析手法、有限要素法や差分法に代表されるような波動音響解析手法が提案されている。高い周波数の音波が伝播する場合や、マイクロデバイス近傍の流れのように伝播する空間が狭い場合、気体中の着目点近傍の分子数が小さくなり、分子の衝突や相互作用がその物理特性に影響を及ぼすことが言及されている。このような空間の音場を解析する場合、気体分子運動に着目した分子気体力学および分子動力学法に代表されるような分子シミュレーションによる解析を行う必要がある。
 本研究では熱音響現象等の解析を目指し分子運動を考慮した音場の解析を試みた。分子の衝突や相互作用から分子位置を計算する分子動力学法に着目し、分子の衝突や相互作用から分子位置を計算しつつ音波伝播の解析を試み、分子の衝突や相互作用が音波伝播に及ぼす影響について検討を行った。
 具体的には、分子動力学シミュレーションを行い、分子位置を逐次求めた。求められた分子位置を、x軸方向から伝播してくる音波が観測できるような x-y 平面、x-z 平面にプロットした。気体分子は移動するが10^-14s後という非常に短い時間内に分子との衝突が起こることが分子位置と分子速度ベクトルの長さから考えることができた。これは気体分子の平均自由行程か63nmと小さく、十分な時間が経過しても空気中の分子はある一定の「塊」 で存在することを示している。また、任意の領域において巨視的な密度、速度分布を求めた。これより音波の伝播を分子運動から解析すると、粒子速度か正の値を取る場合分子数密度か小さくなり平均速度は大きな値を取る、粒子速度か負の値を取る場合分子数密度が大きくなり平均速度が小さな値を取ることが示された。さらに、圧力分布に関して、時間平均値を求めてブラウン運動の影響を最小限にすることを試みた。その結果、瞬時値と比較してグラフ全体の尖度が小さくなり、その中で尖度が大きい部分が存在し、圧力分布が最大値を取ることがわかった。その後圧力分布の大きなところが発生する。この圧力の伝播は音波によるものと考えることができる。
 以上より、分子動力学法を用いて、分子の衝突や相互作用から分子位置を計算しつつ 音波伝播の解析を試み、密度分布と速度分布を求めた。今回は領域外に出てしまった分子に関して周期境界条件を用いて解析を行ったが、境界条件による誤差が現れてしまったので、シミュレーション領域を大きくとるか境界条件を改めて考える必要がある。今後は分子動力学法でこれまでに提案されている境界条件を用いて解析を行うこと、酸素や窒素など二原子分子について同様な解析か可能かどうか検討を加えてゆく所存である。