表題番号:2010B-182 日付:2011/03/24
研究課題逆電流・電圧耐性のある低加湿運転可能な高出力固体高分子形燃料電池の開発研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 鷲尾 方一
研究成果概要
 固体高分子型燃料電池(PEFC)の長期発電のためには、発電性能を低下させる種々の要因について詳細に検討する必要がある。本研究では、アニオン交換基(-OH)によるヒドロキシラジカルの生成を抑制する事を目指して、ナフィオン分散液とアニオン交換樹脂の微粒子をブレンドした電解質膜(NA)を作製し、FENTON試薬を用いて当該電解質膜を劣化させた後、試料の特性を評価した。また更に、低加湿運転を目指した傾斜機能を持つ固体高分子型燃料電池システムをイオンビーム等のエネルギー付与の不均一性を利用して作製し、その特性を評価した。
 まず、アニオン交換樹脂を導入した系については、種々の濃度のアニオン交換樹脂含量の試料を作製しフェントン試験後の重量減少及び溶出したイオンの種類と濃度を測定した。この系においては、アニオン交換樹脂のパウダーの粒子径がナフィオン分散液に比べ大きいため、膜の劣化に伴い、予想より多い重量減少を確認した。すなわち、アニオン交換樹脂が当初の役割を果たさず、母体であるナフィオンとの相溶性の悪さにより、膜の劣化とともに流失したと判断できた。このことより、アニオン交換樹脂の粒子径を少なくともナフィオン分散液と同等にすべきであるという示唆が得られた。一方低加湿運転を実施可能とするために、アノードからカソードにかけて傾斜機能を与えた電解質膜を合成し、プロトン伝導性について検討した。この場合には、FEP(テフロンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体)にカチオン交換基をイオンビームのエネルギー付与の深さ方向への不均一性を利用して、適切な傾斜機能導入し、詳細な試験を行った。その結果、プロトンの移動メカニズムがビークル機構よりホッピング機構が大きく寄与している膜の合成に成功した。これにより、相対湿度0~16%の低加湿条件で、従来の性能を上回る電解質膜の合成に成功した。今後は、当初より検討しているヒドロキシラジカル抑制のためのアニオン交換基の導入方法について更に検討を加える事で真に実用可能な新規の高性能電解質膜が合成できるものと考えている。