表題番号:2010B-140 日付:2011/04/07
研究課題フェニレン系ポリマーの創製を指向した光学活性パラシクロファン素子の不斉合成
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 柴田 高範
研究成果概要
 シクロファンとは、広義で芳香族化合物を含む大環状架橋型化合物である。これまで架橋構造により歪みをもつシクロファン類や、多数の環状構造を架橋部に有する複雑な骨格のシクロファン類の合成が達成された。近年では、シクロファン類のもつ機能性に注目が集まり、ホスト-ゲスト化学のゲスト化合物として多くの研究例がある。中でも、ベンゼン環のパラ位の2つの置換基を環構造で連結した化合物をパラシクロファンと言い、架橋鎖が短い場合にはベンゼン環が自由回転できないために、面不斉を生じ鏡像異性体が存在する。これまで既に、パラシクロファン化合物の面性キラリティを利用し、キラル認識剤、キラルポリマー、不斉配位子などとしての応用が報告されているが、それらは光学分割や不斉結晶化などで合成された。一方、パラシクロファン化合物のエナンチオ選択的不斉合成は僅か3例のみであり、しかも不斉収率の最高値は、我々が報告した79% eeであった。
 そこで本研究では、ベンゼン環と架橋鎖を酸素原子により連結したヒドロキノン型のパラシクロファンを用い、酸素への配位を利用した不斉オルトリチオ化を検討した。その結果、sec-BuLiとキラルジアミン配位子であるsparteineを作用させたところ、高エナンチオ選択的にモノリチオ化が進行し、キラルなアリールリチウム試薬が得られた。さらに、過剰量のsec-BuLiを加えた場合、パラ位で位置選択的かつ高エナンチオ選択的(99% ee)にジリチオ化が進行し、C2対称を有するキラルなアリールジリチウム試薬が得られた。得られたキラルなモノリチオ化、ジリチオ化体を種々の求電子剤と反応させることにより、種々の長さの架橋鎖、種々の官能基を1つないし2つ有する面不斉パラシクロファンが極めて高不斉収率で得られた。