表題番号:2010B-130 日付:2012/03/15
研究課題低酸素応答性転写因子HIFを介した肝脂肪蓄積制御機構の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 合田 亘人
研究成果概要
肝臓は生体内で脂肪組織に次いで生理的条件下で脂肪を蓄積する能力を有する臓器である。一方、脂質の過剰摂取、ウイルス性肝炎、糖尿病やアルコール摂取は病的な過剰の脂質沈着を肝臓に引き起こし、所謂‘脂肪肝’と呼ばれる病態になる。これまで脂肪肝は可逆性の良性疾患として捉えられてきたが、近年脂肪肝の遷延は脂肪性肝炎、肝線維症や肝硬変などのさらに進行した病態へと高率に進展することが明らかになってきた。肝移植以外に進行性肝疾患に対する効果的な治療法がない現状では、脂肪肝発症・進展を如何に食い止めるかが緊急の課題となっている。
低酸素は循環障害などに起因する絶対的な酸素供給の低下のみならず、酸素供給を上回る酸素消費の増加によっても生じる病態である。脂肪肝では、脂肪蓄積による物理的な肝微小循環傷害と代償性脂質代謝亢進に伴うミトコンドリア酸素消費の増加により肝臓が低酸素状態に陥ることから、低酸素への適応が肝脂肪肝蓄積に係わっていると考えられる。そこで、本研究では肝脂肪蓄積に低酸素により誘導される転写制御因子Hypoxia inducible factor-1(HIF-1)が重要な制御因子として機能しているのではないかと仮説を立て、脂肪肝におけるHIF-1の時空間的局在と病態生理学的意義について、エタノール性脂肪肝モデルを用いて解析を行った。その結果、マウスに5%エタノール混餌食4週間投与を行うと、肝小葉内中心静脈領域がpimonidazoleで強く染色され低酸素に陥っていることが明らかになった。また、この低酸素領域に一致して、核内にHIF-1発現の亢進が認められる肝細胞が局在することが分かった。さらに、HIF-1発現亢進に一致し、HIF-1標的遺伝子のVEGFやPGKの遺伝子発現も増加しており、このことはエタノール投与による脂肪肝発症過程で肝臓が低酸素に陥り、その結果HIF-1の転写活性化が生じることを示唆している。一方、肝臓特異的HIF-1alpha遺伝子マウスは、野生型と比較してエタノール応答性脂肪蓄積が増悪することが、oil red O染色、肝臓および血清脂質量の生化学的解析より明らかになった。このことは、低酸素で活性化される転写制御因子HIF-1がエタノール誘導性肝脂肪蓄積に対する抑制因子として機能していることを示唆している。今後、さらにHIF-1による脂肪肝制御機構について詳細に解析を進める予定である。