表題番号:2010B-122 日付:2012/11/09
研究課題界面活性物質の大気圏動態と雲形成過程に及ぼす影響評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 大河内 博
研究成果概要
1.近年,界面活性物質が大気中に存在することが確認されている.界面活性物質は親水基と疎水基からなる有機化合物であり,溶媒の表面張力を低下させる性質を持つ.界面活性物質が雲粒に取り込まれると雲粒径を低下させ,雲の寿命を延ばすことから地球規模の水循環や気候に影響を及ぼす.また,雲粒への疎水性有害有機物の溶解度を増加させる.そこで,水中陰イオン界面活性物質の分析法として用いられているメチレンブルー吸光光度法を大気試料に適用するための最適条件を検討し,大気エアロゾル試料に適用した.また,陽イオン界面活性物質の定量法についても検討を行った.
2.観測は早稲田大学西早稲田キャンパス(新宿),富士山南東麓(御殿場口太郎坊,標高1284 m),富士山頂(3776 m)で行った.大気中エアロゾルはハイボリュームエアサンプラーを用いて捕集し,水抽出した後にメチレンブルー吸光光度法で定量した.富士山南東麓では雲水の採取も行った.
3.Koga et al. (1999) は,分液ロートの代わりに遠沈管を用いる陰イオン界面活性物質の迅速分析法を報告しているが,2本の遠沈管を使用するため操作が煩雑であった.そこで,本法では,より簡便かつ迅速な分析法を確立するために遠沈管を1本とし,分析感度および再現性を向上させるために遠沈管の振とう条件を検討した.その結果,遠沈管を手で20回振とう後に1000 rpmで5分間振とうすることにより,水中濃度として0 – 0.8 µMの低濃度範囲で直線性が高い検量線が得られ,分析感度も向上した.最適条件を用いたエアロゾル捕集用の石英繊維フィルター水抽出液(ブランク)からの添加回収率は94.7±3.2 % (n=3),エアロゾルを捕集した石英繊維フィルター水抽出液(実試料)からの添加回収率は92.3±1.4 %(n=4)であり,本法は界面活性物質の抽出・分析方法として大気エアロゾルに十分に適用可能であることが分かった.そこで,本法を実試料に適用でした.2011年5月17~20日の早稲田大学西早稲田キャンパス(新宿)における大気エアロゾル中陰イオン界面活性物質(MBAS)濃度を浮遊粒子状物質(SPM)濃度の動態を調べたところ,MBASは日中に高く,夜間に低い傾向があることが分かった.粒子状物質濃度(SPM)との相関は低いが(r=0.481),SO2との相関は高かった(r=0.768).したがって,大気中MBASはSO2と同排出源をもつか,同方向からの輸送されている可能性が示された.
 大気中陰イオン界面活性物質が表面張力に及ぼす影響については引き続き検討を行っているところである.