表題番号:2010B-086 日付:2011/02/28
研究課題ビジネスシステムにおける価値共創の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 教授 井上 達彦
研究成果概要
 本研究の目的は、ビジネス生態系(エコシステム)を構成するニッチ企業が、プラットフォームとしてのハブ企業とどのような関係をもつことによって繁栄しうるのか。逆に、エコシステムの中心に位置するハブ企業は、どのようなニッチ企業に取り囲まれ、ニッチのどのような行動を促せば、エコシステム全体の健全性を高め、自らの利益も伸ばすことができるのかについてパイロット調査を行うことである。先行研究についての概観を行い、将来の実証調査に向けたデータの収集を行った結果、下記の二点を明らかにできた。これによって、今後の研究課題が明らかになり、より魅力的なリサーチプロポーザルを行う基礎が整ったと考えられる。
 まず、先行研究のレビューから、エコシステムは、それを構成するプラットフォームとしてのハブ企業とニッチ企業の双方の視点を含みうる分析視角であることがわかった。現状ではプラットフォーム視点の研究がほとんどであるが、今後は、複眼的な分析視角として発展させるべきだという見解にいたった。複眼視角に基づく共創の考え方では、企業の発展は、利益を奪い合う他社との競争やパートナー企業からの利益の搾取からもたらされるとは考えられるべきではない。むしろ、顧客との価値共創造や他社との競争的協調行動(棲み分けなども含む)を通じたエコシステムの拡大、ならびにニッチとしての中小企業の繁栄によって、利益の拡大が実現すると考えられるべきである。
 言い換えれば、ある企業がプラットフォームになれるのは、それが有能なニッチに取り囲まれているからなのである。それゆえ、大企業視点で言えば、ニッチのどのような振る舞いを促せばキーストーン(エコシステムを活性化させるハブ企業)になれるのかが関心事となる。逆に、ニッチ視点で言えば、ニッチ企業として、どのような振る舞いが自らの利得に結びつき、ひいてはエコシステム全体を繁栄させられるのかを自覚すべきということになる。
 次に、実証可能性について調査検討したところ、社会ネットワーク分析を援用した方法が有用であることが明らかになった。IT系のソフト産業やコンテンツ産業において、データ収集の可能性を確認し、パイロット的な小規模データベースを構築した。また、パイロット的なヒアリング調査も行うことができたので、今後、この研究についてより魅力的なリサーチプロポーザルを提示する基礎が整ったと考えられる。