表題番号:2010B-079 日付:2011/04/10
研究課題現世海洋におけるTEX86の年変動動態の解明と瀬戸内海の海水温温暖化記録の解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 助手 守屋 和佳
研究成果概要
 本研究は,遠洋の海底堆積物中に保存され,外洋の海洋表層の古水温代理指標として利用可能なTEX86(TEtraether indeX of 86 carbon atoms)古水温計を,より生物量も多く,環境の変化が激しい浅海域にも適用することを目的としている.TEX86は,海洋中に生息する古細菌の細胞膜の膜脂質の分子構造が,その生息水温に応じて変化することを利用した古水温指標であるが,浅海域においては,未だに野外での実際の観測,適用例がない.そこで,本研究では,浅海の基礎的物理情報を得ることを主眼に,現場観測を主に行った.
 具体的な研究対象には,本邦の閉鎖性浅海域である瀬戸内海の別府湾を設定し,平成22年4月,6月,7月,9月,11月,および平成23年3月の計6回の海洋観測を実施した.これらの観測から,別府湾では,冬から春にかけて水塊の鉛直混合が活発になり,水温,塩分,および溶存酸素濃度などが海洋表層から海底までほぼ一定の値をとることが判明した.また,観測した各月の水柱中の各深度から採取した海水試料の分析から,水柱中のクロロフィルa濃度は3月に極大となることがわかった.
 一方,夏から秋にかけては,表層水の温度が上昇することにより,水柱中に明瞭な温度躍層が発達し,表~中層水に対して底層水が隔離される現象が観測された.また,底層水が隔離されることに伴い,海底の有機物の酸化により底層水中の溶存酸素が消費され,底層水が無酸素状態になることが明らかになった.さらに,この温度躍層では,極めて高い濁度が観測され,底層の還元水塊から溶出した元素が酸化されることにより,多量の粒子形成が起きていると推測される.
 本研究により,瀬戸内海・別府湾の水塊構造の季節変動が明らかになった.今後は現場海水のTEX86分析を行い,本研究による観測結果と対比することで,浅海域でのTEX86古水温計の確立を目指す.