表題番号:2010B-067 日付:2011/03/08
研究課題クロロフィル蛍光を用いた新規薬剤スクリーニング法の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 園池 公毅
研究成果概要
本年度は、シアノバクテリアの特定の蛍光挙動が細胞内のどのような代謝活動に由来しているのかについて研究を行なった。これまでに構築したクロロフィル蛍光挙動のデータベースであるFluoromeを検索することにより、野生型よりも極めて大きなクロロフィル蛍光の変動を示す変異株を見出した。この変異株の原因遺伝子は、呼吸系のNDH複合体のサブユニットの一つであるndhF1であった。シアノバクテリアは呼吸電子伝達鎖と光合成電子伝達鎖がプラストキノンプールを共有しており、光化学系ⅡとNADH脱水素酵素複合体が共にプラストキノンを還元する。呼吸電子伝達鎖が光合成電子伝達に与える影響を明らかにするために、Synechocystis sp. PCC 6803のNADH脱水素酵素複合体の第5サブユニットをコードする遺伝子であるndhF1 (slr0844)を破壊した株を解析した。PAMクロロフィル蛍光測定により求めた生育光強度(20 μmol/m2/s)での光合成電子伝達の実効量子収率ΦⅡはndhF1破壊株の方が野生株よりも高くなっていた。しかしながら、酸素電極を用いて測定した飽和光照射下での光合成電子伝達活性は、野生型とndhF1破壊株で大きな違いは見られなかった。低温クロロフィル蛍光スペクトルの測定によって、野生型は15分間の暗順応によりステート2になるが、ndhF1破壊株では暗順応をしてもステート2になりにくいことが明らかになった。呼吸の末端酸化酵素の阻害剤であるKCNを添加するどちらの株も暗順応でステート2になる。以上の結果は、ndhF1破壊株においては、NADH脱水素酵素複合体の活性低下によりプラストキノンプールがより酸化的になり、ステート2になりにくくなった結果、高い光合成の実効収率を示すと結論できる。