表題番号:2010B-054 日付:2011/04/11
研究課題地理教育の系統化のための基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 池 俊介
研究成果概要
本研究では、日本における系統的な地理教育カリキュラム構築の基礎的作業として、ポルトガルの初等・中等教育段階における地理教育の特質を明らかにすることを目的とした。ポルトガルの義務教育では、初等教育の「環境学習」(第1~4学年)、「ポルトガル地理・歴史」(第5~6学年)、中等教育の「地理」(第7~9学年)の中で地理教育が行われている。また、高校においても大学進学率の高い科学・人文課程のうち、社会経済科学コースでは「地理A」「歴史B」「経済A」(それぞれ第10~11学年の2年継続履修科目)のうち2科目が必修、「地理C」が第12学年の選択科目とされており、最長で12年間にわたる系統的な地理教育が行われている。学習対象地域は、身近な地域~国(第1~4学年)、国(第5~6学年)、国・ヨーロッパ・世界(第7~9学年)へと基本的には同心円的に拡大するが、例えば「環境学習」では身近な地域を主な対象としつつも、自分の家族・友人の出身地を調べる等の活動を通じて、実質的には学習地域は県・国・世界にまで広がり、子どもの空間認識を積極的に広げるための工夫がなされている。また、「地理」においても、6つのテーマについて自国のほか世界の2地域を事例地域として具体的に学習することになっており、地理的事象を多様なスケールで繰り返し学習する点に大きな特徴が見られる。画一的な同心円的拡大方式の適用が問題となっている日本に比べ、学習対象地域のスケールに関する考え方は柔軟であり、系統的な地理教育カリキュラムを検討してゆく上できわめて示唆に富む。また、日射に関する自然科学的な説明や、日射量の地域的差異に関する説明を踏まえて、沿岸地域に偏在する国内観光地の分布の問題を取り上げるなど、自然地理的内容と人文地理的内容を関連づける工夫も積極的になされており、自然地理的内容が社会科・理科に分断されている日本に比べて、総合科学としての地理学の特性がダイレクトに反映されている。