表題番号:2010B-038 日付:2012/03/12
研究課題日本先史土器型式の社会的背景を民族誌に探る
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 高橋 龍三郎
研究成果概要
 縄文土器型式が成立するメカニズムと過程の課題は、長年にわたる日本考古学研究の中枢課題であった。しかし3000年前に過ぎ去った縄文時代を直接見ることは出来ないので、代わりに民族誌の観察から課題に接近するのが本研究の目的である。具体的にはパプア・ニューギニアのイーストケープにフィールドを設定して、具体的に次の2課題を設置して調査を実施した。調査は8月18日から8月28日まで、研究代表者高橋と大学院学生4名(中門亮太、平原信崇、岩井聖吾、服部智至)で実施した。
1.イーストケープ伝統の土器型式がなぜ一定の地理的範囲に分布するのか、その分布過程には、クランや親族構造、トーテムなど社会上の法則が作用しているのか。いるとすれば如何なる社会的背景をもつのか。

2.地域間で交流する異系統土器(ワリ式)がどのようなメカニズムでもたらされ融合し模倣されるのか。

これらの課題について報告者は過去数年間にわたってパプア・ニューギニアで家庭内使用の土器製作と土器交易に関する民族誌研究を行ってきた。その結果、一つの型式が成立する過程で、親族構造や婚姻、トーテムなどの人的・社会的要因が極めて重要な働きをしていることを突き止めた。
 本年度はイーストケープ地方のトパ・ミッションとケヒララ・ミッションにおいて、土器製作の現場に立会い、多くのインタヴューを行った。特にケヒララ・ミッションのポルカナワナ村(サブクラン)のトレハ(葬儀)に立ち会うことができ、伝統的な親族集会と、そこで用いる家庭的土器の様相を把握することができた。多くの親族や来客をもてなすための料理器具であるワリ式土器などの実態について詳しく記録することができた。それらの特定サブクランに集合する土器型式の特徴と、他村との差異の原因を親族、クランなどのレベルから解明する端緒をえることができた。またトパ・ミッションの各サブ・クランを巡回し、村々の女性土器製作者に聞き取り調査を実施し、彼らのトーテムと婚姻システム、クラン名称などについて聞き取った。それら系統所属の違いによって、土器型式上、どの程度の差異が生じるのかを研究するよき材料となった。