表題番号:2010B-036 日付:2011/04/08
研究課題中世兵糧の基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 久保 健一郎
研究成果概要
本研究では、昨年度の特定課題研究Bを引き継いで、日本中世における「兵糧」文言(「兵粮」も含む)を有する史料(以下、「兵糧」史料とする)を収集して兵糧の存在形態、地理的特徴、時期的変遷を追究し、戦争論・社会経済史の発展に寄与することを目的とする研究の一環として、中世後期東国の刊本史料から「兵糧」史料の収集、分析を行った。具体的には、昨年度収集しなかった地域をカバーする『茨城県史料』、『群馬県史』、『埼玉県史』、『神奈川県史』、『山梨県史』、『北区史』、『千葉県の歴史』からの収集となった。旧国名でいえば、常陸・上野・武蔵・相模・甲斐・下総・上総・安房にほぼ相当する。さらに、西国に残存する東国関係史料を求めて、山口県文書館で調査を行った。結果、140例に及ぶ「兵糧」史料を得、昨年度収集分との重複を除くと今年度新たに得た史料は70例余で、昨年度と合わせて210例に及ぶ「兵粮」史料を得たことになる。
 今年度分の地理的特徴は比較的分散傾向にあるということで、最も多い相模でも20例余に過ぎない。また、常陸・甲斐・下総・安房はそれぞれ5例に満たない程度で、かなり少ない。時期的変遷からいうと、南北朝期と戦国期に多いのは、昨年度同様である。ついで、存在形態であるが、これも昨年度同様、南北朝期には「兵粮料所」「兵粮料」として見える事例が顕著である。
 以上のところから昨年度と合わせて東国の「兵粮」について総合的に考えると、昨年度見通した、戦国期には戦争の規模拡大などから実際の食糧としての需要がより大きくなるという点、流通・交通と兵糧との関係が少なくとも中世後期を通じて密接であり続ける点が裏づけられたとともに、中世前期にほとんど「兵粮」史料がないことは、戦費の問題も含め、戦争のあり方が中世前期と後期とでは大きく転換したことを示唆する。東国の中での地域的偏差は依然として課題であるが、東国の「兵粮」のあり方を総合的に捉えることができたのは、大きな成果であると考える。