表題番号:2010B-029 日付:2011/04/11
研究課題将来債権譲渡の法的構造・将来債権譲渡の効力の及ぶ範囲
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 助教 白石 大
研究成果概要
 本課題は,将来債権譲渡の法的構造,具体的には(1)債権の発生時期,(2)将来債権譲渡の対抗の意義,についての解明を目標としており,これを通じて,近年の実務において急速に普及が進みながらいまだ法的に不明確な点が多い同制度に,法的安定性をもたらすことを企図するものである。
 2010年度は,上記目標のうち(1)債権の発生時期に関する研究を行った。この問題は,そもそも何が「将来債権」に該当するかを明らかにするという意味において,本課題の主要部分をなすものである。債権法における基礎的なテーマでありながら,これまでわが国ではまとまった研究の対象となってこなかったこの問題に取り組むため,私はフランス法の議論を参照することに注力した。その理由は,近年フランスで将来債権譲渡と譲渡人の倒産手続との関係についての破毀院判例が立て続けに出され,これを契機に債権の発生時期に関する検討が進み,この論点に関して多くの議論の蓄積がみられるからである。具体的には,フランス債務法の体系書,学位論文,雑誌論文,シンポジウム記事のうち,債権の発生時期につき論じるものを広く渉猟してまとめる作業を行った。
 この研究から得られた示唆は多いが,そのうち何点かを以下に示す。第一に,フランスでは意思自治の伝統が強く,このため賃貸借や雇用等の継続的履行契約においても,契約締結時に全期間分の賃料債権・賃金債権が一斉に発生すると考える見解が有力であること。第二に,契約から発生する債権が単数か複数かという問題を,契約の個数が単数か複数かという問題として捉えなおす見解が見られること。第三に,債権の発生時期に関する検討を通じて,そもそも債権とは何か,債権と契約との関係はいかなるものか,というより根源的な問いに関する議論が深められてきたこと。
 以上の成果については,わが国の学説・判例の状況に関する研究をさらに行ったうえで,2011年度中に論文にまとめて公表する予定である。