表題番号:2010B-025 日付:2011/04/07
研究課題体制移行期の中国法の変容とグローバル化の課題
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 小口 彦太
研究成果概要
研究課題に迫るアプローチとして、特に中国における関係機関、学者からの聞き取り調査に主眼を置き、3月8日から12日の間、北京の法官学院及び北京大学法学院を訪問し、聞き取り調査と意見の交換をなした。先ず、法官学院(裁判官修習機関)では、日本側から日本の判例の機能につき説明がなされ、これに対して法官学院の諸教授から質問が出され、それに日本側が答えるという内容であった。その後、こちらで用意した調査項目につき質疑応答を行った。項目内容は以下の通りである。1、裁判委員会への付託の実質的主体は合議法廷か、院長か。2、裁判委員会へ付託される案件の割合。3、裁判官の法的判断において論理と利益考量のいずれが優先されるか。4、裁判官の採用方法について。5、裁判官は不偏不党の立場で裁判するかそれとも社会的弱者の立場にたって裁判するか。6、違法捜査の存否の挙証責任は被告と検察のいずれが行うか。7、民事訴訟の挙証責任について、民事訴訟証拠規定では、被告に挙証責任を倒置する規定が見られるが、実際の運用状況はいかがか。これらの各項目につき回答を得た。次に、北京大学法学院を訪問し、法学院院長の出迎えを受けたあと、民法の尹田教授、王成教授と、予め配布しておいた各質問項目につき質疑応答を重ねた。先ず、民法についての項目は以下のとおりである。契約法について。1、請求権競合の処理について。2、債権者取消件の被告について。3、不可抗力による履行不能の場合の契約解除と危険負担の関係。4、契約の履行段階でも、詐欺を理由とする取消はあり得るか。5、契約締結上の過失責任が中国契約法に実定化されているが、そのことは不法行為を理由とする損害賠償請求を認めない趣旨か。6、契約法中の公平原則は契約法適用、解釈において社会的弱者の立場に立つことを意味するか。不法行為報について。1、共同不法行為における共同性の理解について、意思の連係を要件とするか。2、権利侵害責任報の高度危険責任(69条)は一般条項として、具体的に適用可能な条文か。3、法人の不法行為責任の規定は何故存在しないのか。4、公平責任(24条)の適用状況。5、製造物責任における、欠陥の存在、欠陥と損害の因果関係等の挙証責任は原告と被告のいずれが負うのか。物権法について。1、家屋不動産の物権変動において登記は必ず行われるか。2、登記機関の審査は形式審査か、実質審査か。3、国有企業の機械設備に抵当権を設定し、債務不履行の場合に、抵当権者は当該設備を差し押さえることができるか。4、株式会社化された企業法人の場合、その財産所有関係は会社法が優先されるのか。5、中国物権法は、不動産の善意取得を規定し、登記の公信力を規定しなかったが、この善意取得は公信力と同じことか。6、農地請負経営権については定期的割りかえは行われているか。以上の質問は清華大学の韓世遠教授にもなした。以上の質問に対する回答を踏まえてこれを論文化し、あるいは研究に活用するつもりである。