表題番号:2010B-021 日付:2011/04/11
研究課題文構造の階層性に関する研究:形態統語論と言語類型論の視点から
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 専任講師 乙黒 亮
研究成果概要
文構造の階層性に関する研究の中でも,本年度の研究課題ではモダリティの内部構造について,形態論,統語論の観点から言語横断的にデータを観察し,その一部について分析を試みた.文構造,とりわけモダリティ表現が示す階層性に関しては,これまでの先行研究で主に意味論的な考察に基づくものが多く見られるが,形態的・統語的側面を詳細にまとめ,形式的に分析されたものはあまり存在しない.よって,比較的詳細な文法記述が利用できるゲルマン諸語の英語,ドイツ語,ノルウェー語やロマンス諸語のフランス語,イタリア語,スペイン語,および近年モダリティ研究が盛んに行われている日本語に関して,文献や先行研究にあたり,モダリティ表現の形態統語的側面についてまとめた.その上で研究初期の試みとして制約に基づく文法理論の1つである語彙機能文法(Lexical-Functional Grammar)での分析を行った.とりわけ日本語,英語に見られる真性モーダルと擬似モーダルの違いに焦点をあて,詳細に分析したものを論文として発表した.具体的には,句構造のレベルでは両者ともに動詞句を補部に取る助動詞要素として現れる一方,文法関係や素性を表す機能構造においては,前者はMOODの素性を指定する要素であるのに対し,後者はそれ自体が述部(PRED)として機能することを経験的データに基づき主張した.今後この理論的提案のさらなる検証を,これまでにまとめたその他の言語のデータに基づき行い,適宜修正を加えていくこととなる.また,さらに研究の対象を類型論的に多様な言語へと広げ,それらの言語に見られるモダリティ表現の詳細な記述と理論的分析を試みることで,言語類型論,文法理論へのさらなる貢献が期待できる.本研究課題はそれらより広範な研究への第一歩の基礎的研究として位置づけられると考えている.