表題番号:2010B-014 日付:2013/11/06
研究課題改正農地法の適用とその影響に関する法社会学的調査研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 楜澤 能生
研究成果概要
2009年農地法改正で、農作業に常時従事しない個人、農業生産法人以外の一般法人も農地に賃借権の設定を容認することになった。本研究は以下のフィールド調査を実施して、その影響を調査することを目的とした。
1.高知県
 (1)大豊町
    ①株式会社 西日本高速道路エンジニアリング
②株式会社 大豊ゆとりファーム
    ③大豊町農業委員会
 (2)三原村
    ①三原村農業公社
    ②三原村農業委員会
 (3)高知県農業会議
2.新潟県
 (1)十日町市:株式会社 千手
 (2)村上市:有限会社 神林カントリー農園
3.島根県
 (1)奥出雲町役場
 (2)佐藤工務所
 (3)植田工務所
 (4)中村工務所
調査対象のうち、農外出自の一般法人は、高知県大豊町の西日本高速道路エンジニアリング、島根県の三法人である。このうち島根県の三法人は、土建業だが、従業員の過半は地元の兼業農家であり、地域性に強く性格づけられているといってよい。そのあらわれが、生産条件が極めて悪い農地を引き受けている点であり、農業部門単独で利益が上がっているとは言えない。他面地域への貢献度が高いということができる。したがって農外の企業ではあるが、地域に根ざし、地域の信頼を得て地元の期待を担っているということができる。個別農家と競合して、これを駆逐するといった構図にはなっていないことが確認された。
高知県大豊町の西日本高速道路エンジニアリングの場合、災害時における対応として、高速道路のポイントごとに人を配置する必要があり、配置人員の平時における仕事として農業に参入する形態である。ハウスでの花卉栽培に取り組んでいる。ここでも条件のいい農地を集積するといった状況にはなく、極めて限定された範囲での進出となっている。
残りの法人は基本的に農内出自の法人として評価することができる。高齢化に伴う担い手不足の状況に対して、農作業受託組織の立ち上げにより対応しようとしており、地域の農地保全に大きな役割を果たしていると評価できる。神林カントリーは、忠氏個人が経営する有限会社ではあるが、やはり地域の規範に準拠して、無理な小作料競争を控え、すみわけを意識しながら拡大を志向している。忠氏自身も例えば森林生産組合の組合長の役割を引き受け、地元との一体性を確保しているということができる。
今年度の調査の結果からのみ判断すれば、今のところ2009年改正による農地賃貸借市場への影響は大きくないことが確認された。