表題番号:2010B-003 日付:2011/02/15
研究課題死後出版小説の問題点と編集の正当性―プルーストの場合
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 徳田 陽彦
研究成果概要
科研費補助金申請をして、採用はされなかったものA評価をいただき、いずれはこの特定課題研究費に採用されるだろうと考えていた。しかし今年度は、科研費の評価公表時期がたいへん遅れ、したがって特定課題研究費の交付発表も遅れることになった。またその執行は8月以降となり、特定課題研究費を当てにして、9月中旬にフランスに渡航して研究しようと計画していて8月に旅行代理店に申し込んだところ、予定していた日付の便は満席であるとのことだった。結局、渡航は断念せざるを得なくなった。
 しかし10月20日ごろ、科研費補助金に追加採用されたとの連絡があり、その内定通知以降は特定課題研究費の執行は中止して、科研費に移行するようにとの指示であった。10年ぐらい前にも同様な事態が起きたが、そのときは科研費内定通後も特定課題研究費の執行は続けられた。どのような理由で変更したのか、いつ変更されたのか、知らされないままであり、少少戸惑ってしまった。というのも、筆者は交付された特定課題研究費の10分の1も使用していなかったから、すでに筆者以上に使用していた者との扱いが不公平ではないかと感じたからである。ともあれ、科研費補助金交付は喜んでいる。
 研究内容は、プル-ストの大部の小説『失われた時を求めて』のうち、死後出版である第6巻「消え去ったアルベルチーヌ(逃げ去った女)」の無意志的記憶、忘却、イタリア美術等をめぐる考察である。今回は、この巻で繰り広げられる「忘却」のテーマを扱ってりる。プルースト=(?)話者は、ヴェネチア滞在中、死んだ恋人アルベルチーヌへの忘却を完成した(第3段階)と語る。アルベルチーヌの死後(死は夏の間であった)、ほぼ6ヵ月後に(めずらしく時期は明示される)、話者は第1段階の忘却現象を認識する。しかし奇妙なことに、第2段階もこの時期に起こったエピソードに起因する。プルーストはもともと物語の時間にはまったく厳格ではなったが、”段階”と言明した以上、ある程度の時期的差異があるのがふつうである。そこが第2段階の忘却現象の曖昧さであろう。未完成小説であったことも原因のひとつであろう。そこで筆者が問題としているのは、各段階のクライテリアは何かということである。このことをいずれ学部の紀要にまとめたいと考えている。