表題番号:2010A-947 日付:2011/04/11
研究課題液体Sn中のSbの不純物拡散係数測定による自由体積の変化と拡散係数との関係の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等研究所 准教授 鈴木 進補
研究成果概要
従来,液体金属中の拡散係数は自然対流により測定が困難とされていたが,近年代表研究者らは試料の安定密度配置とシアーセル法を組み合わせた対流抑制方法を開発し,高精度の拡散係数測定を可能にした。しかしながら,未だ十分な量の測定データが得られていないため,液体金属における拡散のメカニズムは未だに解明されていない。そこで,本研究は拡散実験により液体金属の自由体積などの材料学的因子がどのように作用しているかを調べることを目的とした。
本研究では,拡散実験装置であるシアーセルの設計を行った。この実験装置は,直径d=1.5 mmの孔を持つグラファイト製のディスク(厚さH=3 mm、消耗品)を20枚重ね合わせることで,その孔が連結し長さ60 mmのキャピラリーを形成する構造となっている。シアーセル法と試料の安定密度配置を組み合わせた方法により液体試料中の対流を抑制し,厚さ3 mmのSn-5 at.% SbからのSnへSbの拡散を測定した。シアーセルを炉内で903 Kで3.5 h保持し,拡散実験後の試料のSb濃度に厚い層からの拡散の理論式をフィッティングすることにより拡散係数を求めた。比較のため,Sn中のBiの拡散も測定した。
地上で安定密度配置を用いて得られたSbのSn中への不純物拡散係数は,4回の比較実験において良く一致した。さらに,以前の微小重力結果と同等の値を示したことから,拡散実験中の対流は抑制されたと考えられる。また,測定したSn中のBiの拡散係数は,これまでの結果で明らかになっている絶対温度の約2乗に比例する式で良好にフィッティングすることができた。また,過去の文献値と比較すると,903 KでのSn中の不純物拡散係数を比較するとBi, In, Sbの順に大きくなることも明らかとなった。
温度上昇に伴う自由体積の増加や,溶質の原子半径の減少により拡散係数が増加することは,従来提案されていた溶媒の自由体積を媒介として拡散するというメカニズムと矛盾しない。
本研究で対象とした材料系において,温度及び溶質が拡散係数に与える影響を明らかにした。今後,これらの因子及び他の因子が拡散係数に与える影響をさらに定量的に調べ,拡散のメカニズムを詳細に考察する必要がある。