表題番号:2010A-919 日付:2011/03/24
研究課題神経幹細胞に発現する遺伝子群の同定と機能解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 榊原 伸一
研究成果概要
ヒトを含め哺乳動物の成体脳には、多分化能や自己複製能を特徴とする神経幹細胞が限られた部位に存在し続ける事が報告されている。しかし神経幹細胞の脳内での分布や、幹細胞を維持するための遺伝子発現の制御機構については依然不明な点が多い。我々は神経幹細胞に強く発現する新規遺伝子群を同定し、その発現部位、機能を明らかにすることにより神経幹細胞の維持、制御機構の解明を目指している。
本特定課題研究では、我々が既に単離同定している神経幹細胞に発現する遺伝子群について解析を進めた。MB14およびME55遺伝子はNotchシグナル関連分子に弱い相同性を示し、SD35は細胞周期にブレーキをかけるタンパク質との弱い相同性が認められた。またMG49遺伝子は糖鎖転移酵素の活性中心と類似のドメインを持つ新規タンパク質であった。in situ hybridization解析により、MB14、ME55 mRNA発現は胎生期の脳室周囲層、および生後や成体脳の側脳室の脳室下層といった神経幹細胞が局在すると考えられる部位での発現が認められた。また解析が先行しているradmis遺伝子については、神経幹細胞の放射状細胞突起と分裂期紡錘体微小管に一過性に局在し、分裂後は速やかに後期促進複合体APC/Cdh1によるユビキチン化を受けてタンパクが分解され、幹細胞内から除去される可能性が示された。実際の個体レベルでのradmis遺伝子の機能を検討するため、ユビキチン化を受けないよう改変した変異型radmis遺伝子を作製し、子宮内電気穿孔法によりマウス胎児の脳室内へ遺伝子導入を行った。その結果、radmis遺伝子を強制発現した神経幹細胞では分裂の亢進と細胞移動の異常が起きる事が明らかとなった。以上のデータからradmisが神経幹細胞の分裂制御に重要な働きを持つことが示唆された。