表題番号:2010A-875 日付:2011/03/09
研究課題任意の元素を含む大規模分子系のための分子理論の開発と希土類材料・触媒への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助手 清野 淳司
研究成果概要
 重原子を含む化合物の電子状態を定性的または定量的に計算するためには、相対論効果が不可欠である。この相対論効果の記述にはSchroedinger方程式では不十分であり、Dirac方程式を用いる必要がある。これまでDirac方程式を高精度に解くために様々な方法が提案されてきたが、未だ適用範囲は原子数個から構成される分子のみである。本研究では以下の二点の理論拡張により、大規模分子系が計算できる汎用的な相対論的量子化学理論の開発を行った。[1]相対論的な1電子ハミルトニアン生成の高速化、[2]相対論効果を正確に記述可能な一般化非制限Hartree-Fock(GUHF)法の、分割統治 (DC) 法への拡張。
 まず[1]について説明する。Dirac方程式内のハミルトニアンであるDiracハミルトニアンは電子だけでなく陽電子の状態も記述するが、電子だけを扱う限り陽電子は不要である。そのためDiracハミルトニアンにユニタリー変換を施すことによって電子状態のみを記述するハミルトニアンを生成する様々な方法が提案されてきた。しかし、この変換は通常分子全体に対して行うため、計算時間はO(n3)(nは系の大きさ)であり、大規模系の計算に適さない。そこで本研究ではユニタリー変換の局所性を考慮した近似手法、「部分系におけるユニタリー変換手法」を開発した。この方法は各原子と各相互作用に分けた部分系について変換を行うことで高速化が実現される。本手法の計算コストはO(n1)であり、テスト計算を行ったほぼすべての分子系で近似による誤差は0.01 kcal/mol以内と、高精度かつ大規模系にも適用可能であることが確認された。
 続いて[2]については、スピン-軌道相互作用などのαスピンとβスピンが混ざり合う相互作用を正確に記述できるGUHF法を、大規模分子理論であるDC法へと拡張し、プログラム作成を行った。本手法の分割による計算誤差を検証した結果、従来の制限HF法を基盤にしたDC法と同等の誤差を与えることが確認された。