表題番号:2010A-852 日付:2011/04/11
研究課題近赤外領域での分子の高強度レーザー電場による解離過程の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 新倉 弘倫
研究成果概要
赤外の高強度のフェムト秒レーザーパルスを分子に照射すると、複数のエネルギー準位から電子がトンネルイオン化しうる。このとき、分子内にアト秒(1アト秒=10-18秒)の時間スケールで運動する電子の流れ(電子波束運動)が生じることを近年、当研究者は実験的に見いだしている。しかし、電子波束を生じるイオン化直後の電子波動関数の空間的な状態は、分子から発生した軟X線高次高調波のスペクトルの測定結果から推定して得られたものであるため、それを同定するには直接の観測が必要であった。当研究者は~1500-2000nmの光を用いて軟X線高次高調波を発生させ、同様の測定を行うことを目指しているが、軟X線高次高調波発生は同時に生じるイオン化過程と競合する。イオン化は高調波発生と相補的であるため、イオン化が抑制される条件を見いだす必要がある。本研究では、(1)800nmの35フェムト秒レーザーパルスを光パラメトリック発振(OPA)により1200nm~2000nmのシグナル光とアイドラー光を発生させ、(2)二つのパルスを重ね合わせ、分子に集光することで生成したイオンの収量を波長とレーザーの強度として測定することを計画した。具体的には飛行時間差型質量分析器(TOF-MS)を作成する。本研究期間においては、以下の二つのことを行った。(1) チタンサファイアレーザー装置を実験室に備え付け、その光学的調整を行いパルスあたり2mJの強度で約35fsのレーザーパルスを発生させた。次に、そのレーザーパルスを用いてOPA発振を行い、1500nmで約0.26mJの強度を得ることに成功した。(2)次に当該の研究予算を用いてTOF-MSにおけるイオン信号を測定する部分であるマイクロチャンネルプレートを購入し、それを独自に作成したTOF-MSに組み込んだ。本装置を真空チャンバーに備え付け、レーザーパルスを集光しイオン収量の測定を試みている最中である。地震等の影響もあり計画の遂行が若干遅れたが、近日中に目的とするデータを完全に得ることが出来ると予測している。