表題番号:2010A-814 日付:2011/04/07
研究課題旧石器時代における集団の領域と石材採取活動
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 長崎 潤一
研究成果概要
 本研究は旧石器集団の移動や領域について考究するのがテーマである。石材の調達、石器製作、廃棄という一連の遺跡での行動の結果として、遺跡に残される石器を分析対象としている。本研究では特に北海道での黒曜石利用からこのテーマに迫るものであるが、適用範囲は列島全体に及ぶ。火山岩である黒曜石は微量元素分析によって容易に産地が特定できるため、石材調達、移動経路などの分析に欠かせない石材であり、鋭利で加工しやすい点から旧石器時代に多用された。
 2010年9月、札幌国際大学と札幌学院大学が進める倶知安町峠下遺跡の第二次発掘調査に参加し調査協力を行う機会を得た。本調査によって遺跡内の3地点(D地点、F地点、G地点)から旧石器集中出土地点を検出した。3地点は相互に30~50メートル離れており、別個の石器群と考えられた。D地点では白滝型細石刃石器群が検出された。北海道内でも白滝型細石刃石器群の単独集中地点は珍しく、今後の整理作業によって本石器群の様相が明らかになるものと思われ、今回の調査で最も大きな成果といえる。またF地点、G地点での石器集中部確認によって、峠下台地の全域が旧石器集団に利用されていた実態も明らかとなった。さらに出土石器の大半は赤井川産黒曜石を用いており(肉眼観察による判別)、接合や母岩別分類の作業を経て石材消費過程の一端を解明できることが期待される。
 旧石器時代、寒冷化による海水準の低下により、北海道は大陸から南へ延びた半島の先端部となっていた。最終氷期の最寒冷期を迎え、大陸の寒冷気候に耐えられなくなった集団が南下した可能性が近年指摘されるようになった。この集団が北海道で細石刃技術を爛熟させ、その技術を携え、最寒冷期が終了するとアメリカ大陸へと進出したという仮説も唱えられている。こうした意味で北海道の細石刃技術、石材利用、移動態様の解明は大きな意味を有している。本研究の成果はその一助となるものと考えている。