表題番号:2010A-611 日付:2012/04/14
研究課題フランス・ブルターニュ地方における「キリスト受難群像碑」の造形人類学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 蔵持 不三也
研究成果概要
 本研究は、フランス・ブルターニュ地方における「キリスト受難群像碑」、通称「カルヴェール」(calvaires)を造形人類学的視点から追究したものである。中心をなす研究方法は関連文献解析と現地調査である。このうち、当該住民たちへの聞き取りを含む現地調査は2010年11月および2011年9月に実施した。調査対象となった主なカルヴェールは以下のとおりである。

 1.トロロエン(Tronoën):ブルターニュ地方最古のカルヴェールで、建立は1450-70年。キリストの磔刑を含む新約聖書の場面を、100人あまりの人物像で表わしている。
 2.ギミリオー(Guimiliau):建立時期は1581-88年。ブルターニュ地方コルヌアイユの伝説王ミリオーの名を冠したカルヴェールで、200人以上の群像表現は、カルヴェール最多。
 3.ゲヘンノ(Güéhenno):1550年に建立されたが、革命期に破壊され、19世紀中葉に再建されたカルヴェール。旧約・新約聖書のエピソードが主題。
 4.サン・テゴネック(St. Thégonnec):1610年建立。モーセの十戒場面や4福音書記者の表現が特徴。

 実際の調査対象はいずれも教会境内に建てられたこれら4か所のほか、さらに墓地や丘上の8か所、計12か所にのぼるが、これら現地調査や関連文献の解析、さらに住民たちへの聞き取り調査などにより、一連のカルヴェールがフランス国内において特に宗教心が篤いとされる住民たちの信仰表象やランドマークとしてのみならず、ケルト人の後継者をもって任じるブルターニュ人たちの集団的な記憶やローカル・アイデンティティ、「ブルターニュ復興運動」のシンボル、観光戦略(町・村おこし)のエンブレム、青少年のブルターニュ文化教育の資本などになっていることが確認できた。この成果は従来の宗教学的視点からのカルヴェール研究をかなり凌駕し得たものとなっているはずである。