表題番号:2010A-606 日付:2014/04/10
研究課題分子と流体を繋ぐ水ダイナミクスの階層構造と秩序化機構の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 吉村 浩明
(連携研究者) 理工学術院 教授 山本 勝弘
(連携研究者) 理工学術院 准教授 柳尾 朋洋
研究成果概要
(1) 単一気泡のダイナミクスとその解析
キャビテーションに代表される混相流は,ナヴィエ・ストークス方程式によるマクロな視点に加えて,気泡に関わるミクロからマクロに至るダイナミクスの理解が不可欠となる.本研究では,流体運動をミクロからマクロまでの視点を通して理解するために,①分子動力学の手法による気泡の生成崩壊機構の理解,②粒子(SPH)法によるナヴィエ・ストークス方程式のラグランジュ記述による解析法の開発,③ナヴィエ・ストークス方程式から導かれる球対称な気泡ダイナミクスに関するレイリー・プリセット方程式による解析について考察を行った.①については,分子動力学による数値解析プログラムを開発し,レナードジョーンズ流体をもとに,気泡の生成崩壊過程について解析した.②についても粒子法についても数値解析ツールを開発し,自由表面問題である水柱崩壊のベンチマークテストを行った.③に関しては,レイリー・プリセット方程式に高周波数の外部励振を加え,ナノバブルに見られるような微小気泡が安定に存在することを数値解析で確認することができた.さらに,単泡性のソノルミネッセンスに関する実験装置を開発し,高速ビデオカメラで気泡のリバウンド挙動を観察した.これらに加え,④流体数学的な視点から流体幾何の構造をディラック構造として捉え,理想流体の運動に関して,オイラー・ポアンカレ簡約の理論により,陰的なオイラー・ポアンカレ方程式による定式化を行った.

(2) キャビテーションジェットと気泡雲の解析
相変化を含む管内非定常気液二相流の数値流体モデルとして、ガス離散化モデルと均質気泡流モデルを比較した.検証実験からガス離散化モデルは、精度は十分でないが非定常気液2相流のプロトタイプモデルであることを確認した.また、混相流の基本問題であるキャビテーションの固体壊食メカニズムを調査するため,キャビテーションジェットから放出される気泡雲の挙動を撮影速度46.5×104fpsの高速ビデオカメラで観察し,ハイドロフォンにより圧力パルスの発生頻度を測定した.その結果、圧力パルスは気泡雲が最小となる数μs 前に発生し、その発生頻度は1-10[kHz]であることを見出した.このような圧力パルスの発生機構は定性的ではあるが均質気泡流モデルにより説明できる見込みを得た.実験値との比較は今後の課題である.

(3) 分子の集合系における構造変化と相変化の力学的機構
本研究では,希ガス原子や水分子の集合系(クラスター)における構造変化と相変化の力学的機構を探求した.また,そのための一般的な方法論として,幾何学と超球座標に基づく多体系の振動モード解析法を発展させた.この解析法により,系の主軸方向の伸縮運動に対応するモードが,多くの原子分子集合系の集団運動において,支配的な役割を果たしていることを明らかにした.また,系が球対称な質量分布をもつときには,モード間の動的結合が非常に強くなり,系の運動はマルコフ的となること,および,系が非対称な質量分布をもつときには,系の運動は非マルコフ的となる傾向があることを明らかにした.本結果は,原子分子集合系における自己組織化の機構解明に向けた第一歩であると期待できる.