表題番号:2010A-504 日付:2013/02/20
研究課題身体の全身揺動を他者と共有するインタラクションシステムの開発とその効果に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 上杉 繁
研究成果概要
 離れた相手と装置を介して握手することや,手にした道具を互いが動かしあうことなど,身体の一部の動きに着目した様々な遠隔インタラクションツールに関する研究が進められている.一方申請者らは, ロッキングチェアを使用する時のように,常に揺らさずとも揺れが持続し,足で床を蹴る,あるいは重心位置の変化で揺れを起こすことなどによる全身揺動に着目し,二者間の身体の揺れを伝え合うための装置開発にこれまで取り組んできた.そして,本申請研究では,こうした互いの全身の揺れの共有に関し,揺動している身体の動きや二台の椅子の座面角度の変化,そしてタイミングの共有などの動作のダイナミクスについて,さらには揺動中の二者間における主体性や他者性の問題などについて検討するために,様々なインタラクション実験に対応可能な基盤システムの開発をまずは行い,続いてインタラクションに関する予備的な調査を行った.
 本システムは駆動部,計測・制御部から構成される.駆動部のアクチュエータは座面と繋がっており,高出力かつ高いバックドライバビリティと滑らかな動きが必要になる.そこでダイレクトモータ(横河電機製, DR5E130)を使用することにした.このモータは,最大回転数(1.2[rps])は低いものの,最大出力トルク(130[Nm])は非常に大きいという特徴がある.そのため減速機が要らず,比較的小型でバックラッシュも無いという利点がある.一方,高出力・高精度のモータのため,機械剛性が低いと構造が歪み,モータが発振する恐れがある.そのためモータ両端から突き出した軸を,座面フレームの左右の側板とそれぞれ接合し,軸やフレームにかかる力を分散させる構造とした.この駆動部の構築により,最大で体重80[kg]までの人が座面に乗っても,揺動させることが十分可能となった.計測・制御部では座面駆動と座面の動きの取得のために,モータの角度・トルクの計測・制御をおこなう.角度はモータに組み込まれている高分解能エンコーダ(1228800[ppr])によって検出され,その値はエンコーダカウンタおよび位置指令パルス発振機能を有するモーションコントロールボードを介してコンピュータに入力される.そしてトルクは,出力軸両端の2箇所に張り付けたひずみゲージを利用して計測されるが,ひずみ値は増幅後にA/D・D/A ボード(分解能16bit)を介してコンピュータに入力され,モータの計測・制御に使用する.また,非常時に停止できるよう,被験者の足元と実験者の手元には停止スイッチを用意した.
 以上に記述したシステムを構築し,制御参照値としてはモータ軸角度,軸トルクの値を,制御値としてはモータ軸角度,モータトルクを自由に組み合わせることを可能とする,2台の座面の協調制御方法を実装した.この制御方法の組み合わせの例として,モータトルク制御の方式においては,モータ角度と軸トルクを参照してトルク制御するコンプライアンス制御を実現した.これは剛性や粘性を自由に変更できる仮想物体を介して互いの座面が繋がれたように感じる制御である.
 最後に,2台の座面の協調制御方法の違いによる,相手の動きの感じ方や動かし方の変化への影響を調べるために,実装した複数の制御方法を比較条件とした予備的なインタラクション実験を行った.インタラクション中の二者にスイッチを持たせ,相手と共に揺れていると感じたらスイッチを押すよう指示し,座面角度・軸トルクの計測データと二者の回答を同時に取得した.これらの実験により,持続的な揺動が生じやすいコンプライアンス制御や,座面を動かしにくい角度制御など,2台の座面を協調動作する制御方法によって,揺動の共有に影響を与える可能性が示唆された.