表題番号:2010A-503 日付:2013/04/28
研究課題シアノバクテリアの形態形成原理の解明とバイオメディア芸術への展開
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 岩崎 秀雄
研究成果概要
A. 多細胞性シアノバクテリアの時間パターン(概日システム)の解析:
 細胞分化パターニングを示す糸状性シアノバクテリアAnabaena における概日システムの解析を行った。マイクロアレイ解析を複数回行い、単細胞性シアノバクテリアとは,時計遺伝子の発現パターンや概日発現遺伝子群の発現位相分布に大きな違いがみられることを明らかにした。さらに、そこから二つの高振幅概日発現遺伝子群を抽出し、バクテリアルルシフェラーゼ遺伝子を用いた生物発光レポーター株を作製し、リアルタイムモニタリングを行うことで詳細な概日発現リズムの状態を解析することができ、連続明条件下における周期の温度補償性や暗パルスに対する光位相応答を確認した。

B. シアノバクテリアの細胞分化パターニングの解析:
 Anabaena の細胞分化の中枢遺伝子hetR, patS は,確証されたわけではないが,転写因子および,その活性を阻害するオリゴペプチドをコードする。自己活性化ループと自己抑制がカップリングし,抑制因子が拡散性というTuring モデルが当てはまりそうだが,妥当性は検討されていない。そこで,顕微鏡下での連続培養観測系を立ち上げ,バクテリアでは世界初となる細胞分化系譜を構築し,位置情報の決定が初期値依存的ではなく,細胞間相互作用を介して動的に決定されることを明らかにした(PLoSONE,2009)。この成果を踏まえ,マイクロデバイス工学を援用した微小流路を用い,特定の分化制御・パターン制御遺伝子候補を局所的に発現させたり,分化誘導に重要な影響を与える代謝産物などを添加できる系を構築することを目標とし、複数のデザインのデバイスを用いて解析を行った。その結果、細胞フィラメントの流路への導入には成功するが、デバイス内での成長阻害が見られており、まだ詳細な解析には至っていない。今後引き続き検討する必要がある。

C. シアノバクテリアのコロニー・パターン形成の解析:
 申請者が西早稲田キャンパスの池から単離した、複雑なコロニーパターンを形成する2種(Pseuanabaena, Geitlerinema)を対象とし、これらのパターンがどのようなプロセスと原理で生成するのかを解析した。まず、さまざまな環境条件下での運動パターンの定量的な観測を行い,モルフォロジーダイアグラムの構築を行った。その結果、Geitlerinemaは比較的安定な集団軌道を自律的に形成し、特徴的な渦状コロニーを形成するのに対し、Pseudanabaenaはバンドル状、円盤状、彗星状の三つの形態を動的に遷移しながら複雑かつ流動的に多様なコロニーパターンを形成することを見いだし、それらの動的パターンの定量的な解析を進めた。

D. シアノバクテリアを用いたバイオメディア・アートの試み:
 シアノバクテリアのパターン形成・運動過程を長期間撮影することで得られる映像に加え,細胞を用いた絵画・彫刻表現や,電気回路との接続による新たな形式のメディア芸術の展開を図った。この際,科学者・芸術家の双方にとって新しいこと(サイエンスとアートが未分化であり,双方を相補的に展開できること),ときとしてファインアートにおける造形行為を相対化する側面を持つこと,科学と芸術の境界面を鋭くえぐり出すものであること,新たな規範的な造形美の可能性を追求すること,をコンセプトとし、さまざまな作品を発表することが出来た。2010 年度はオーストリア・リンツにおいて個展およびライトアートビエンナーレへの招待展示、オランダ・ハーグにおけるオランダ国際ビエンナーレにおける招待展示を行った。2011年度はTokyo Designers Weekに多摩美術大学、慶應義塾大学SFCとの共同でバイオアートに関する展示、また岡本太郎生誕100周年記念展(岡本太郎美術館)での大規模な作品の展示を行い、多くの注目を集めた。metaPhorestと呼ばれる、生命論に興味を持つ芸術家たちがアーティスト・イン・レジデンス的に研究室に集うプラットフォームを本格化されることで、国内外でも有数の生命美学の拠点の一つを形成しつつあると考えている。岩崎は、さらに2010年に米国NSF+英国ESPRCの主宰で実現した、合成生物学に関わる芸術・デザインの国際プロジェクトSynthetic Aestheticsのメンバー(約400名の応募中12名)に選ばれ、生命美学に関するオーストラリアのアーティストとの共同プロジェクトを開始した。