表題番号:2010A-502 日付:2014/04/08
研究課題プラズモニック物質による光増強反応場の創成
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 井村 考平
研究成果概要
 ナノ構造体に励起されるプラズモンは,光電場をナノ構造体近傍に時間的空間的に閉じ込め,増強する。増強電場は,近接して存在する分子の蛍光やラマン散乱を増強することから,センサーなどへの応用が進んでいる。近年,光増強場を化学反応場として利用することが提案され,ナノ構造体の光化学反応への応用が試みられた。本研究では,光増強場を有するナノ構造体として,金属薄膜に作成した微小開口(ボイド)を利用することを提案した。
 研究当初は,ナノ構造体が光化学反応場として確かに有効であるか不明な部分があったため,ナノロッドに発生する光増強場を用いて,これを確認することとした。光化学反応の評価には,ジアリールエテンの二光子誘起閉環―開環反応を利用した。また試料として,ナノロッド,ジアリールエテンの混合溶液と混合薄膜の二種類を用いた。これら二つの試料を用いた研究から,ロッドプラズモンを共鳴励起することで,光反応速度が増大することが明らかとなった。反応収量の光照射時間依存性の解析から,溶液および薄膜試料でそれぞれ反応速度が2倍,6倍増大することが明らかとなった。また,薄膜試料では光照射時間とともに反応収量の飽和が観測されたのに対し,薄膜試料では飽和現象は観測されなかった。光反応分子数の解析から,固体試料ではロッド近傍のみで反応が進行することが,また溶液試料ではロッド表面において繰り返し光化学反応が進行することが明らかとなった。
 金属薄膜に作成したボイドを化学反応容器として利用することで,固体試料における反応速度の増大と溶液試料における反応場の繰り返し利用の両方の長所を利用することが可能である。ボイドは,ポリスチレン球をガラス基板上に分散後,金属膜をコートし,その後,ポリスチレン球を除去することで作成した。次に,高空間分解能での観察が可能な近接光学顕微鏡を用いてボイド近傍および内部で光増強場が発生することを確認した。また,この試料にジアリールエテンをスピンコードした試料を作成し,そのテスト計測から,ジアリールエテンに由来すると考えられるラマン散乱信号を確認した。ジアリールエテンの閉環体と開環体では,観測されるラマン散乱の波数が変化することから,試料の光反応前後のラマン計測により,化学反応量を見積もることができる。現在,ボイドの化学反応場としての有効性をラマン計測により評価することを検討している。