表題番号:2010A-106 日付:2011/03/31
研究課題ラオスにおける構造的暴力と貧困の女性化の研究―人身売買被害者にみる社会環境分析―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 助手 島﨑 裕子
研究成果概要
本研究計画は、ラオスにおける人身売買をテーマとして、女性・女児の人身売買がいかなる動因で発生するか、また、それを可能とさせるような社会環境、地域文化がいかに変化、形成されるかを、事例から読みとることを目的とした。
現地調査は、2010年7月、2011年2月~3月の計2回にわたって行った。2010年7月の調査では、首都ビエンチャンにおいてAgir pour les Femmes en Situation(以下AFESIP)や、The Asia Foundation、CARE International、UNIAPなどに対して聞き取り調査を行った。2月の調査では、タイへの経由口として人口移動が急増しているタイ・ラオスの国境に接するサヴァナケット県において、タイへの入国経路と方法、移動労働状況の調査を行った。また同地域では、AFESIP のサヴァナケット事務所、World Visionから聞き取り調査を行った。農村の状況については、チャンパサック県、サラワン県で実施されている女性収入向上プロジェクトを通じて女性たちの置かれている現状を捉えた。
現地調査結果によると、現在ラオスにおける農村出身女性の人身売買は、移動労働の流れのなかで発生しており、最悪の結果として「人身売買の被害にあう」ということが伺えた。つまり、移動労働者たちの意図しないところで、被害者へと転化させられるという、複雑化した実態が浮き彫りになった。
移動労働先での女性たちの職種は建設業、製造業、家事労働があげられるが、そのなかでも家事労働に従事する割合が高いことが伺えた。それは、他の周辺国と比較してラオス女性の場合は、タイ側の雇用主と言語コミュニケーションが容易であることが指摘できる。しかし、雇用主からの性的搾取や、最終的に騙され性産業などへの転売も見受けられた。
貧困格差の削減を目的として建設されたメコン河流域諸国内の経済回廊にかかる橋の影響は大きく、従来みられなかった地域にも人の動きがもたらされていた。
 今後は本調査を土台とし、メコン河流域諸国の人身売買の動き、特にタイに向かって人口移動がなされているという共通点を持っているカンボジアとラオスにおける人身売買の比較調査へと研究を展開していきたい。