表題番号:2010A-051 日付:2011/04/11
研究課題NF-κBシグナル伝達経路を標的とした高悪性乳癌の治療法の確立
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 仙波 憲太郎
研究成果概要
転写因子NFκBは、様々な癌細胞において恒常的に活性化し、細胞増殖や転移・浸潤、血管新生などに関わる様々な遺伝子の発現を誘導して癌の悪性化をもたらす。従ってNFκBは抗癌剤の格好の標的であるが、NFκB阻害剤の開発は難航していること、NFκBは感染防御や骨代謝制御などの多様な生理機能を有することから、癌細胞においてNFκB恒常的活性化を導く上流のタンパク質や癌の悪性化に関わる標的遺伝子に対する阻害剤の開発が必要とされている。
 これまでに我々は、高悪性のbasal-like乳癌細胞において、タンパク質キナーゼNIK依存的にNFκBが恒常的に活性化し細胞増殖に必要な役割を果たしていることを明らかにした。本年度は、特定課題研究としてbasal-like乳癌細胞におけるNFκB標的遺伝子の探索とNIK恒常的活性化機構の解析を行った。標的遺伝子探索の結果、乳癌幹細胞の維持に関わるシグナル伝達系のリガンドを同定した(本年度日本癌学会にて発表、論文準備中)。これは、NFκBの恒常的活性化が乳癌幹細胞維持に関わることを分子レベルで示した初めての成果である。さらに、癌細胞の転移・浸潤を促進する細胞骨格制御因子も同定しており、上記リガンドやこの因子がbasal-like乳癌細胞に対する新たな治療標的になる可能性がある。NIK活性化機構の解析としては、basal-like乳癌細胞ではNIK遺伝子のエピジェネティック変異によりNIK mRNAが高発現してNFκB恒常的活性化を誘導していることを明らかにした。この成果はCancer Science誌に論文発表した(Yamamoto M et al, 2010)。さらに、プロテオーム解析によりNIK活性化に関わるユビキチン関連因子も同定しており、その分子機構について詳細な解析を進めているところである。