表題番号:2010A-040 日付:2013/04/02
研究課題富士山体を利用した自由対流圏高度におけるエアロゾル―雲―降水相互作用の観測
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 大河内 博
研究成果概要
1.富士山は孤立峰で斜面が急峻であり,山頂は自由対流圏高度に位置することから,日本上空における大気中および雲水中の様々な大気汚染物質のバックグランド濃度,大陸からの長距離輸送によるバックグランド汚染,エアロゾルーガスー雲ー降水相互作用の観測を行うことができる.2010年に行った夏季集中観測で得られた結果を以下に述べる.
2.観測は富士山南東麓の太郎坊(1300 m)と富士山頂(3776m)で行った.富士山頂での雲水採取には細線式パッシブサンプラー(臼井工業, FWP-500),南東麓での雲水採取には自動雲水採取機(北都電気,DFC-2200)を用いた.また,同時にフィルターパック法によりエアロゾル,酸性ガスおよびアンモニアを捕集した.試料は直ちに持ち帰り,分析を行った.
3.2010年夏季集中観測期間(7月13日~8月25日)における富士山頂の雲水pHは3.59~5.66 (平均4.95, n=40),南東麓の雲水pHは3.23~5.53 (平均4.01, n=21)であった.山頂における観測期間中の平均雲水内総イオン濃度は113 µeq/L であり,南東麓の1/10程度であった.雲水のNO3-/nss SO42-比は山頂で0.30~1.80 (平均0.84),南東麓で0.46~3.24 (平均2.63)であることから,富士山頂では南東麓に比べて大気中硝酸濃度が低いために雲水pHが高いと考えられる.
 2010年8月中旬の山頂における雲水化学性状を示す.海洋性気塊が卓越していた8月9-12日には,雲水内総イオン濃度は20 µeq/L以下であり,pHは5.5付近を推移した.8月13日以降に大陸性気塊に変わると総イオン濃度は増加して1 meq/Lに達し,NO3-/nss SO42-比は0.30,pHは3.59まで低下した.この時にはCOとO3濃度も増加していることから,大陸からの汚染大気の輸送を示唆している.