表題番号:2010A-013 日付:2011/03/06
研究課題検定力分析の重要性認知に関する教育的実践法の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 豊田 秀樹
(連携研究者) 文学学術院 助手 福中 公輔
研究成果概要
 Cohen, J(1962)や杉澤(1999)が以前から指摘しているように,実験系心理学や教育心理学など実験・調査を必要とする分野において検定力分析は非常に重要である。しかしながら,t検定をはじめとした統計的仮説検定に比べて,我が国における検定力分析の重要性の認知度は著しく低かった。これは検定力分析が数理的にも高度であり,また様々なケースにおける一般的な適用法,すなわち「ケースごとの一連の手続き」が定式化されていなかったためだと考えられる。このような現況を鑑み,2009年度には,極力数式を使用せず,初学者にも理解しやすいように検定力分析の一般的な手続きを一冊の書籍にまとめた(豊田,2009)。この書籍により,我が国でも検定力分析の重要性が広く研究者の間で認識されるようになった。
 しかし,研究者間ではその重要性が認知されるようにはなったが,実際の研究への活用事例はそれほど上昇しているとは言いがたかった。この状況を改善するためには,書籍を出版するだけでなく,検定力分析の利用の仕方などを個別の事例を交えながら細かく解説する必要があると考える。すなわち学生や若手研究者に対する検定力分析の教育的実践である。
 まず学部学生に対しては,本学で開講されている「心理学演習4(実験計画実習)」の中で検定力分析について取り上げ,解説を行った。授業資料は豊田(2009)を元にして,学部学生に対してより教育効果が高まるように配慮して作成した。統計的諸問題に関する学生からの質問でよく聞くものに,「調査や実験において標本をどれだけ集めればよいか?」というものがあるが,検定力分析はこの問題に対する1つの答えである。このため本授業で解説した内容は,将来に対する教育的効果として非常に大きいものと考えられる。
また,若手研究者に対しては,日本心理学会のワークショップや日本教育心理学会の自主シンポジウムで,検定力分析の理論的展開を構造方程式モデリング(SEM)と絡めながら話題の提供を行った。このような活動を続けることにより,我が国においても検定力分析の重要性の認知が将来において進むものと考えられる。