表題番号:2010A-007 日付:2011/04/13
研究課題絵図に見られる高野山200年の歴史―画像史料の新たなる可能性を探る―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 ニールス・グュルベルク
研究成果概要
今回の研究は、一つの史料群を場所的と時代的に限定して、その機能や特色をできるかぎり正確に捉えようという試みだった。研究成果を一冊の研究書に纏めることも主な目的だった。このたぐいの研究は、その基になっている史料の質に左右されているので、申請後から研究期間開始の間や研究期間中にも史料の充実を目指してきた。研究期間開始の直前に古本市場にめったに出てこない大型の絵図3点を購入することができた。大型絵図はその大きさゆえに明治時代までは道案内の役割も果たした所謂「一枚もの」の絵図と異なる使用目的で製作されていたが、製作過程に携わった人物(画家、彫師、摺り師、版元、販売組織)が概ね同じであるから、資料作成を論ずるには欠かせないものである。研究期間中にも大型絵図2点を追加することができたので、文献や目録上で知られているすべての関連絵図が揃えた。そのため、元の計画に予定しなかった大型絵図研究2点を研究成果に取り入れることを決めた。その一つは、従来高野山の基礎史料として利用されてきた『紀伊続風土記』(1839完成)と文化十年(1813)作『高野山細見図』の比較だった。比較によって、『紀伊続風土記』編集過程で高野山から提供された寺院関連資料が誤読された形跡も判明できた。もう一つは、高野山の近世から近代への過度期ともいえる1850年代から1890年代まで40年間に様々な版で使用されていた『高野山略図』とその元になった『(再刻増補)高野山細見絵図』との比較であった。
所謂「一枚もの」の絵図に関しては、概説の他に、寺院内で独自に発展した出版文化の中で位置づけてみた。「一枚もの」は、商品化された印刷物として商業出版の始まりともいえる。また個別研究は、空海1050年回忌の記念事業として1884年に完成を目指した大塔再建の試み(この試みは失敗で終わったが)を絵図に反映された形で検討した。