表題番号:2010A-005 日付:2011/11/16
研究課題失業・雇用対策としての創業・起業支援政策に関する理論研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 福島 淑彦
研究成果概要
本研究の目的は、これまで日本であまり重点を置かれてこなかった失業・雇用対策としての創業・起業支援政策に注目し、スウェーデンの創業・起業支援政策を検証・研究することによって、日本の失業問題の解決方法としての創業・起業支援政策の可能性を探ることであった。
 スウェーデンの創業・起業支援政策を検証した結果判明したことは、資金調達・融資等以外の部分に資金調達と同程度か、それ以上の重きが置かれて創業・起業支援政策が行われていることであった。このことを踏まえて、資金面以外に重きを置く創業・起業支援政策のマクロ経済効果を一般均衡モデルを用いて分析した。
 理論モデルでは、労働者の賃金及び雇用水準は、労働需要曲線と賃金曲線(wage-setting curve或いはwage curve)の交点で決まるというシンプルな枠組みを用いた。労働需要曲線は企業の利潤最大化の行動から導出し、賃金曲線はManning(1991、1993)が用いたナッシュ交渉モデルによって導出する。理論モデルでは政府が自営業者の生産する財を買い上げるという形で、創業・起業の支援を行うと設定している。つまり、政府による買い上げの増加は創業・起業のインセンティブを高める。分析では政府による自営業者の生産物の買い上げが増加(減少)した時に、自営業者の賃金や、自営業者以外の雇用労働者数や賃金、失業にどのような影響を及ぼすのか分析している。モデルから導かれた結論は以下のとおりである。政府の支援によって自営業者が増加すると、企業で雇用されている労働者数は減少する。つまり、「クラウディング・アウト効果」が存在している。しかし、この「クラウディング・アウト効果」が経済全体の総就業者数の減少を引き起こすとは限らない。経済全体の総就業者数が減少するかどうかは、企業部門の労働者が失業者になる確率と自営業者が廃業して失業者となる確率との大小関係に依存している。企業部門の労働者が離職して失業者となる確率の方が自営業者が廃業して失業者となる確率よりも大きい場合には、自営業者の増加は総就業者数を増加させる。自営業者数の増加は企業部門で雇われている労働者と自営業者の両方の賃金或いは所得を上昇させる。自営業者数の増加は失業プールから自営業部門へ移行できる失業者が増加することを意味し、このことは失業の現在価値を上昇させる。失業の現在価値の上昇は、企業部門での賃金の賃金上昇圧力として働き、結果として企業部門の賃金が増加する。さらには自営業者の所得も上昇する。これは企業で働くことの現在価値と自営業者として働くことの現在価値が均衡では等しくなるためである。