表題番号:2009B-369 日付:2010/03/10
研究課題SILAC法による感染初期応答ネットワークの比較解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 仙波 憲太郎
研究成果概要
 生物はさまざまな細菌やウイルスの感染の危険に曝されている。自然免疫は、ショウジョウバエから存在する進化的に高度に保存された防御システムである。生物は病原体の感染を受けると、その構成成分(pathogen-associated molecular patterns; PAMPs)を認識するToll-like receptor(TLR)を活性化して炎症性サイトカインの産生などの宿主応答を行う。
 我々を含む複数のグループはTLR4による宿主応答反応においてチロシンリン酸化が必須であることを見いだしたが、その下流におけるシグナル伝達経路の全体を捉えられていなかった。こうした包括的な解析を可能にするプロテオミクスの実験技術が近年急速に発展した。我々は、シグナル伝達の最も初期に作動するチロシンリン酸化に焦点を当て、安定同位体でタンパク質を標識するSILAC法と呼ばれる方法で、TLR4の活性化に伴ってチロシンリン酸化されるタンパク質とリン酸化のダイナミクスを解析した。その結果、TLR4の活性化によりチロシンリン酸化をうけるタンパク質(もしくはその結合蛋白質)を61種類同定することに成功した。さらにチロシンリン酸化されるタンパク質のうち、マクロファージでの機能が未知であったBCAPについてより詳細な分子生物学的解析を行い、BCAPが選択的スプライシングにより二種類のタンパク質が発現すること、このうちの一つ(分子量の大きいL型)がSyk-PI3K-PLC-γを介するNF-κBの持続的な活性化を抑制することにより、抗炎症性サイトカインであるIL-10の発現を抑制して感染応答を調節することを明らかにした。